2018年10月1日

木の家スクール名古屋2018 第3回:9月22日(土)①

歴史都市京都の都市構造と京都型住居モデル

講師:魚谷 繁礼 氏 (建築家、魚谷繁礼建築研究所・代表)

木の家スクール名古屋2018 第3回は魚谷繁礼さん(魚谷繁礼建築研究所)を講師に迎え、「歴史都市京都の都市構造と京都型住居モデル」と題して講演頂きました。講演は、新築木造の紹介から始まり、増築木造と建築基準法、最後に京都の都市構造と京都型住居モデルが内容です。

魚谷さんは、学生時代を京都で過ごされ、研究対象に町家を選んだことから木造建物の魅力に取り付かれたとか。その中でも、既存の町家を早く、安く、たくさん改修して後世に伝える仕事に今は精力的に取り組まれています。これは、まったくの偶然ですが、次回(第5回)の講師をお願いしている布野修司先生の研究室に所属したこと、本会とも関連の深い加子母で遥拝所の建設に木匠塾で関わられたことの2点が、学生時代の魚谷さんに大きな影響を与えたようです。私としては、不思議な縁を勝手に感じてしまいました。

新築木造の紹介では、魚谷さんがこれまでに設計された建物を4棟ほど紹介頂きました。鹿島の森の住宅では、森の中にある樹木をさけるように建物を設計し、森の中にたたずむ住宅をイメージされた素敵な建物でした。道の駅 みのりの郷 東金では、地域産材を多く使って欲しいとの要望に応えたはずが、逆に木材が足らなくなる事態が発生し、別地域の木材を使用したなど、苦労することも多いようです。どの建物も木材をいっぱい使われていること、木造建物の設計は、線材(軸組)に面(壁)を貼っていくと考えると設計が自由になるという言葉が印象的でした。

増築木造と建築基準法では、様々な関係法令を考慮しながらも、楽しんで設計されていることがスライドから伝わってくるような内容でした。増改築は新築では決してたどり着かない平面となることに“面白み”であるという言葉は、まったくその通りだと感じます。町家の上に鉄骨で骨組みをつくり、コンテナを配置する「コンテナ町家」とか、自由な発想も多く、根継ぎなどの伝統構法を使えば鉄筋コンクリート建物よりも改修が容易という発言も心強かったです。

京都の都市構造と京都型住居モデルのお話しでは、京都の町家の変遷や、路地に注目されていることを講演頂きました。町家とは、道路に面して住みたいという発想から生まれたもの、町家の所有者が商売替えの際に、路地を作って長屋が誕生したこと、京都では長屋の路地奥にこそ街並みが残っていて、そちらを積極的に残すべきだと熱く語って頂きました。現在の京都では、町家が取り壊されると屋外駐車場となり、最後にセットバックしたマンションとなる事例が多いそうです。

最後に、魚谷さんが設計されたシャアハウスなどの事例を紹介頂き、3畳の部屋を敢えて残した平面計画などに結構人気が集まり、町家に若者が集まる楽しい空間の絵をイメージしながら、講演は終了しました。

 

(文責 清水秀丸)


2018年8月15日

木の家スクール名古屋2018 第2回:7月21日(土)②

土に学ぶ暮らし ~コミュニティたんぼのつくりかた~

講師:菊地 晃生 氏 (ファームガーデンたそがれ 主宰)

「設計の実務をしている方に、田んぼで米作りをしている私が何を伝えれば役に立つのか?ですが、今までやってきた事を紹介して、何らかのヒントになれば!」と、お話が始まりました。

「16年前に豊橋技大で都市計画、地域計画の研究室にいた頃に藤岡先生にお目にかかり、名工大の博士課程で藤岡研究室のお世話になり、自分は何がしたいか?自分は何が出来るか?を自問自答する時間となりました。」

「建築のデザインや設計に関心があり、伊東豊雄さんの処でコンペを手伝ったりしましたが、一本の線を引くのが怖く、図面上で物事を決める事が危険な行為と思え、物を作るより、木を植える事をしたいと気付き、15年前に帯広のランドスケープの会社に入社しました。」

「関わった仕事は、森を庭のように変えていき、野鳥の活動を町まで広がるようなプランニングとか、街を見渡す自然公園とか、計画は面白いのですが、自分の身体感覚とのギャップが有るなと感じていました。そんな折に、祖父の交通事故が有り、母と祖母だけで田んぼの世話は無理と判断し、実家に帰る事にしました。秋田のランドスケープは、森林と水田。田んぼを軸に、自分の出来ることをしようと、考えました」と、ここまでは講義の言葉を書き出しました。

此処から先は、農業従事者としての生き方に変わるのですが、農業従事者の人数が将来どの様に変化していくか?湖を干拓して農地を作った八郎潟は、農業従事者が減る将来は、またもとの八郎潟に戻すのだろうか?など、深い疑問を感じながらも、農業の楽しさを都会の人にも分かち合う仕組みを考え、実践を始めた様子のお話です。無農薬のお米づくりから始まった農業のようですが、最近は、一般の方も農業に参加できるシステムも始めた様子です。

「小さな農を営み、小さなコミューンを作る動きが活発になってきている。あらゆる地域に同じような感覚を持っている人がいる。その人達と関わりを持ち、大きなうねりにしていけないか、が今の僕の願いです」との言葉で講義は終わりました。この先が楽しみです。

是非、講義のビデオを借りて、農業従事者としての菊地さんの暮らしぶりを楽しんで下さい。

(文責:寺川千佳子)


木の家スクール名古屋2018 第2回:7月21日(土)①

源流の木で家を作る活動と水系再生

講師:神谷 博 氏 (㈱設計計画水系デザイン研究室 代表取締役)

㈱設計計画水系デザイン研究室・代表取締役の神谷先生にお話を伺いました。

水系デザインとか、水とコミュニティーの設計と聞いても、何を設計しているのか、全く想像ができませんでしたが、お話を伺うと、自然に絡む仕事なら、どれもが水に関係しているのが判ってきます。という事は、なんでも設計をなさるということなのでしょう。

山梨県の小菅村(多摩川の源流地域)では、高齢化が進み、山の管理が出来ず、山が疲弊し森が元気をなくしているとの悩みを抱え、神谷さんに相談がきたそうです。自分は何が出来るのか?と考え、源流の木で家を作ることを提案したところ、カソリック教会から、子供寮の依頼があり、子供達の心に残る物を!と考え、木がどこで育つか子供達と一緒に山に入り、キリスト教式のお祓いをして切り出し、建物を作る最初の過程から子供達に参加して貰い、建設を進めたそうです。

その他、川の上流と下流の方たちの流域懇談会や、水の研究会、雨水の性能を認め評価する活動など、活動の幅の広さと、物事の根本まで掘り下げる深さに驚かされた講義でした。特に建築に携わる受講生に神谷先生が強く訴えられたことは、2014年に施行された「雨水の利用の推進に関する法律」や、同時に成立した「水循環基本法」とともに、日本の雨水を取り巻く状況が大きく変わったこと、そして極端気象の深刻化とともに雨に関わる災害も増えており、その有効な対策の一つが建築における雨水活用であるというお考えでした。そうした意識をもち、的確なノウハウを持った建築士の養成が喫緊の課題であるとの見解には説得力がありました。

(文責:寺川千佳子)


木の家スクール名古屋2018 第1回:6月2日(土)①

地域との関係をつくる環境色彩計画

講師:加藤 幸枝 氏 (色彩計画家、有限会社クリマ・取締役)

今年も木の家スクール名古屋の講座が始まりました。6月2日(土)第1回目前半の講師は加藤幸枝さんでした。加藤先生は色彩計画家であり、景観アドバイザーや武蔵野美術大学非常勤講師など多岐にわたりご活躍されています。

講義の前半では、日本と世界のカラーコーディネートの違いをカラフルなスライドと共に、大変分かりやすく解説していただきました。ヨーロッパでは素材のテクスチャーよりも色の対比や配色を重視する傾向があり、一方、日本では色よりも質感が重視されるようです。国の文化に根付いた色彩感覚が基になっているのでしょう。日本の伝統的な街並みにおける色彩調和は色相が揃えられ、ヨーロッパの古い町並みでは類似色相で調和させ、ディズニー空間ではトーン調和が用いられているというお話もありました。様々な色が混じっているように見えますが、多くの色彩調和のパターンはこのどれかに入っているそうです。

講義の後半では実例を基に、環境色彩デザイナーとしてのお仕事のご紹介をいくつかしていただきました。例えば、山梨県甲府市ぶどうの丘で行われた修景事業の市民参加型ワークショップでは、ガードレールの外側を毎年地域住民と少しずつ塗っているそうです。白いガードレールをブドウの幹の色に近い茶色に塗ることで周辺環境の色彩に溶け込ませていました。フランスのカラリスト、ジャン・フィリップ・ランクロ氏が提唱した「色彩の地理学」に基づいた環境色彩の実例として参考になりました。

(文責:宇野みき)


2018年7月20日

木の家スクール名古屋2018 第1回:6月2日(土)②

伝統建築技術の継承 ~今日の民藝という視点から~

講師:佐野 春仁 氏 (京都建築専門学校 校長)

 京都建築専門学校では、学生が伝統建築町家の工事、作業を通して多くのことを学んでいる。制作の対象は町家の耐震補強、お茶室、薪小屋、ツリーハウス、イベントのインスタレーションなど幅広く、工事の内容も木工、左官、茅葺き、林業(間伐や皮むき)など多種にわたる。子ども参加、市民参加、木匠塾、お茶会でのおもてなしなどかかわり方にも工夫があって面白かった。
 「今日の民芸」という視点からも深いお話をいただいた。
柳宗悦は「すべての美しさは奉仕の心から生まれる」と書いている。佐野先生はぼろ町家にどうして惹かれるのかという話を熱く語っておられた。学生たちがかかわるぼろ町家が魅力的なのは、かつてそこにあった生活の美、用の美が、若者たちの手を通して新たな工芸の美、奉仕の美となっていくからなのかもしれない。
 学問や技術に偏重しがちな現代において、言葉以前の何かが重要で、木や土を知ることことを通して、体験を通して、自然や己を知ることになるんだというお話もされていた。ある夫婦は、「この絵は私たちの精神を豊かにしてくれるのだろうか」を基準にして、絵を購入しているという話があった。
 体験を通して感性を磨き、感性や精神を豊かにするための選択を重ねることによって、より豊かになっていくのだろう。私たちがものづくりや建築に関わってゆく中で、自分たちを豊かにしながら、そして後の時代によりよい地層を残してゆくことができればと感じる講義だった。
(文:宇野)