2019年10月26日

木の家スクール名古屋2019 第4回:9月28日(土)②

庭から建築を考える -美しい住まいと緑のあり方―

荻野寿也 氏(荻野寿也景観設計、荻野建材株式会社 代表取締役)

かつて、湯布院の町は別府温泉に押されてさびれかかった時期がありました。その時に、大型バスを呼び込むような開発をするのではなく、むしろ落葉の雑木が茂る里山の原風景を思わせるような景観づくりに舵をきり、それによって観光客を呼び戻し再起しました。

今から25年ほど前、この湯布院の町を訪れてそのことを知り衝撃を受けた荻野さんは“自分もこれから、このようなものを造園の世界に入れこんでいきたい”との思いを強く持たれたと話されます。

建築に大変興味が有ると言われる荻野さんですが、吉村順三設計の「軽井沢山荘」やフランク・ロイド・ライト設計の「落水荘」にしても、背景の緑との関係がとても素晴らしいといいます。またミースは、ファンズワース邸の設計で、その模型を樹木越しに見て検討したというエピソードを引用して、建築と緑は切っても切れない関係のものであり、如何に緑が建築を魅力的に見せる力を持っているか。また、緑のある外と内の関係性によって空間は一層素敵になる、と話されます。

かつての庭は、剪定された松や灯籠などの仕立物によって造られ、客間のお座敷から愛でるためのもの。それは維持管理するに大変な費用が掛かるものでした。その後、荻野さんが自邸を建てられた頃(25年ほど前)はイングリッシュガーデン全盛。しかしこれもまた、一年草の植え変えが大変で、あえなく、また庭離れが進んでしまいました。そして最近の庭の主流といえば、アルミのカーポートと、ポストやインターホンを取付けるための門柱が立てられているといった、機能だけ揃えられたもの。これでは全く魅力も無い。“マンションに負けてしまわないように「欲しいもの」にしていかなければいけない”と話されます。

講義では、これまで荻野さんが手掛けられた沢山の事例の写真を見ながら、実際の庭づくりのお話を伺いました。

荻野さんの庭の設計は平面だけでなく、断面や立面での検討もしながら進められます。根鉢の掘削土を活かして敷地に起伏を付けることで、昔からあるかのような地形を思わせたり、高木、中木、低木、そして地被植物の組合せで、立体的に目を楽しませてくれる植栽デザインをされています。また、あえて建物に近いところに高木の落葉樹を植える手法は、建物に笠をかぶせるイメージ。濡れ縁やリビングの床に木漏れ日が揺れることで、陽と自然の風を感じ心が和みます。この心地良さはほぼ本能的なものだと。その木漏れ日の下で楽しむ「外ご飯」はまた格別で、冬でもわざわざ炬燵を出して鍋を楽しむ家族もあるほどだとか。つくられたものとは思えないほどナチュラルな荻野さんの庭は、ただ美しいだけではなく、このように、暮らしそのものを十分楽しくしてくれる魅力に満ちています。

植木畑で栽培された庭木ではなく、日本中の山を歩いて、ご自身の目で探した当てた奇麗な自然樹形の木や石をつかわれるという取り組み方に、荻野さんの庭づくりに対する情熱を感じます。

下から照らすアッパーライトではなく、上から葉と足元の地被や苔を照らすほのかなダウン照明手法や、樹木を活かしてさりげなく視線を操作するテクニックなど、造園屋の目線からの提案もできるので、是非、建物の計画の段階から相談をして進めていくことが大事である、とのお話しに納得致しました。

また、工事の最後にはワークショップを開いて、住まい手に剪定の楽しさを体験してもらいながら、今後のメンテナンス法を伝授したり、地元の造園家も巻き込んでいくことで、お庭づくりの楽しさを伝えながら、長く生きながらえる庭を追求されています。

講義最後の写真は、通り側に置いたベンチに座る女の子二人の後ろ姿。二人は楽しそうにお話をしているようでした。このようなさり気ない近隣のコミュニケーションを育む設えに、荻野さんの庭づくりにい寄せる“思い”が感じられたような気が致しました。

(文:丹羽明人)