2019年9月24日

木の家スクール名古屋2019 第3回:9月7日(土)①

2035年に当たり前に木材のある社会を目指して

―飛騨五木グループの取り組み―

 

井上 博成 氏(飛騨五木株式会社・企画研究室長、すみれ地域信託株式会社・常務取締役)

 

木の家スクール名古屋2019第3回は、木に関わる文化や伝統をどのように継続的なビジネスとするかを主題とし、台風15号が迫る真夏日の中、井上博成さん、金野幸雄さんを講師に迎えました。

第1部の井上博成さんの講演では、井上グループ全体のビジョン「自然資本から地域を変える」のもと、森林がもっと身近に、持続可能となるよう精力的に活動されていることが説明されました。なんと、井上さんの地元である高山市は日本一広い自治体で、その93%が森林面積(大阪府と同程度)だとか。事業構築のきっかけは、木材がすべて建築で使われた場合のサプライチェーンを想定すると、数兆円の経済規模が高山市に出現し、それを50年サイクルで循環させたいとの壮大な夢だそうです。ご本人も、この想定はありえないが、基本的な考え方として木材をただ燃やすのではなく、「1本の丸太の価値の最大化」を目指し、地域商社・地域金融として高山市をスタートとして、ゆくゆくは日本各地の地域の森を元気にしていきたいと。その夢を実現するため、高山に大学・大学院を設置することまで考えているそうです。

話題は、井上さんの専門であるエネルギー事業へと。井上さんは、再生可能エネルギーの研究といえば太陽光ばかりで水力、地熱、バイオマスなどが少ないことに違和感を覚え、大学の指導教員に相談に行きます。すると先生より、「ボトムアップとして、自分で設立した方が早い」とアドバイスを貰い、自ら活動を開始したそうです。自然豊かな高山市で、再生可能エネルギーによる地域再生に向けた地域の価値創出を目指し、高山市は自然エネルギー利用日本一を目指すとおっしゃっていました。その夢を実現するため、バイオマス・小水力エネルギーに着目しているそうです。バイオマスの研究としては、ドイツのモデルを参考とし、電力供給ではなく熱供給を行い、燃料を重油・灯油から木質へ転換することを目指しています。小水力では、環境・生態系への影響負担が大きくない自然と調和できるミニ水力、マイクロ水力を選択し、すでに完成している事例を紹介頂きました。

これらの夢は、2014年に策定した20年ビジョンに沿った行動で、井上グループや仲間と一緒に乗り越えてかたちになってきたことが熱く紹介されました。自社で金融から不動産・林業・建築など、様々な事業を展開し、行動の根底には木材が当たり前にある社会を形成することが、聞いていて心地よい感覚を覚えたのは、私だけではなかったことでしょう。

講演を通して、聴衆の専門外であるエネルギーの話を分かりやすく、かみ砕いて説明頂き何より数字に裏付けされた事前予測には、納得のいくことばかりした。ただ、何よりも井上さんの行動力には驚かされっぱなしの1時間半でした。

(文:清水秀丸)


2019年7月14日

木の家スクール名古屋2019 第2回:7月6日(土)②

木を生かす建築

講師:望月 義伸 氏
(伊藤平左ェ門建築事務所・名古屋所長)

「旅先で景色を見ていると、日本は緑に溢れていて良いなあ~と感じるが、実は山は荒れています。
良い木が手に入りにくいので、木を大切に使いたいという話をします」と、講義が始まりました。

杣(ソマ)とは、字の通り、木のある山のこと。
近世、木挽(コビキ)さんは木を切ることの専門家。
杣と現場を繋ぐのが木挽さんの役目です。

■木材の流れ

古代:杣人 → 大工 → 現場

中世:杣人 → 番匠(現在の大工さん)→ 現場

近世:伊勢湾台風以後、機械製材が盛んになり、
木挽の職業が無くなった。木の製品化が進み、木が規格化され、コスト競争が始まり、
自然の伐り売りが始まり、山の崩壊が始まった。
更に、外材の使用が増え、現場と杣とが分離してしまった。
現在の木造建築の欠点が此処にあると思う。
「どの時代も 杣(木)と現場を結ぶ人の育成が必要。

■木材と乾燥

木挽は木材を乾燥させずに引くが、木挽が引いて建てた家は、ほとんど狂わない。
しっかり製材をすれば、狂わない。
「木の特性を知り、原木から本気を取ることが大切。」

 

 

■木構造・柱の足元

① 地中に柱を埋める。
② 礎石の上に柱を立てる。その際、柱を太くする。
③ 土台の上に柱を建てる。

■木構造・架構

① 京呂
② 折置
③ 木組みをせず、金物で固める・・・強度は

「構造が丈夫であることが、大切。」

 ■木を活かす金物

① 和釘
② スクリュー釘

木造には金属が不可欠。木を活かすには、各素材との共存と互いに補い合う関係になるべし。

 

講義の後半では、会場の外に準備された丸太を大鋸などで丸太挽きする実演の後、受講生も順番に体験をさせて頂きました。

「手元と切口、そして丸太の端に視点を置きながら全体を見るように」、
「刃が焼けないように、ゆっくり挽いてください。」
こう言われるように自ら鋸を挽いてみて、
講義冒頭で望月先生が言われたその木の特徴を読み取って挽いた木材は長持ちする」
との言葉について合点がいきました。

こうしてゆっくり挽いていると、なんだかこの丸太と対話しているような気分になってくるのです。
「無」で木に向き合う心地の、充実した一時でした。

(文責:寺川、丹羽)


木の家スクール名古屋2019 第2回:7月6日(土)①

今に活かす昭和の丁寧な暮らし

講師:小泉 和子 氏

(昭和のくらし博物館・館長、家具道具室内史学会・会長)

小泉先生は、家具や道具の研究がご専門。
その専門的な研究に加え、昭和25年に住宅金融公庫の融資の最初の基準に沿って、
建築家のお父様が設計して建てた家を、「昭和の暮らし博物館」として一般公開している。
「今は、畳も床の間も知らない学生さんが多く、驚くべき状況です」と、
「昭和の暮らし」の話が始まった。

昭和の時代、エアコンなどは無くとも、開放的な造りで、四季を通じて快適に暮らす知恵が昔の家には詰まっている。

例えば、暮には大掃除の為に、
①畳を外して干す、②障子を張り替える、③茶殻を撒いて畳を掃除する。④床の間の軸を変え、⑤鏡餅やお飾りを支度してお正月を迎える。

夏は風通しを大事にし、御簾やスダレを掛け、座布団にも夏用の麻やパナマでカバーを掛ける。
冬は火鉢や炬燵を出す。季節の変化に細やかに応じるには、蔵がないと暮らしていけない。
現在の住宅事情ではなかなか実現が難しいのがこの点だ。

使い勝手の良い魅力的な家とはどのようなものか。
縁側が有り、軒下が有り、汚れ仕事用の土間が有り、糠味噌を置く床下があり・・・と、
人の多様な暮らしの工夫を自在に受け止めうる応用性に富んだシンプルな空間と、
そこに人が季節のしつらえを小まめに施すことで実現される、魅力的で快適な空間こそが良い家なのだと説かれた。
また、こうしたしつらえがあってこそ日本の家は魅力的なものになりえるのであり、文化財級の建築であっても、
ただ建築を見せるだけではその真価が伝わらないとも力説された。

この様に、夏には夏の対処をし、冬には冬の支度をして、
暮らしやすさを確保してきた日本住宅の工夫を、『仕舞う』という本にまとめられたとのこと。
この他にも、暮らしの技術や工夫に関するご著書も多数出版されているので参照されたい。
最後に、「買うと人はバカになる」との名言とともに、
知恵と工夫と熟練した手技からなる「生活技術」を磨くことが人間力を高める大事なことなのだと講義を締めくくられた。

(文責:寺川)


2019年7月7日

木の家スクール名古屋2019 第2回関連情報(人・技講座のご案内)

2019年7月6日(土)に開催された木の家スクール名古屋2019第2回講座の講師・望月義伸先生(伊藤平左エ門建築事務所)より、「伝統建築を支える 人・技講座」のご案内がありました。

7月13日(土)14時より愛知県岡崎市で開催されますので、ご関心のある方はぜひご参加ください。詳細は写真のチラシの通りです。

第2回講座(講師:小泉和子先生、望月義伸先生)のブログは後日アップさせていただきます。

(文責:田中)


2019年6月7日

木の家スクール名古屋2019 第1回:6月1日(土)②

なぜそこにシロアリがいるか

講師:神谷 忠弘 氏(岡崎シロアリ技研・代表)

 

第2部は、「シロアリの生態と対策 シロアリはどこから来るか」というタイトルで神谷忠弘さん(岡崎シロアリ技研)に講演を頂きました。神谷さんの講演は、様々な学問分野の見識を織り交ぜたものとなりましたが、会場からは定期的に笑い声が聞かれる、良い意味で質の高いエンターテイメントを見ているような賑やかな講演となりました。

シロアリとは、湿気によって湧いて出る生物ではなく、和漢三才図会にも登場する一般的な土壌生物であり、シロアリの8割を占めるヤマトシロアリはもともと多くの土地に生息すること、2割のイエシロアリは限られた地域に生息するとの説明が最初にありました。シロアリ対策の元来の対象種はイエシロアリだけであったこと、加害規模は世界一であること、間違ったイエシロアリ駆除は意味がなく、シロアリの特徴・生態を理解したうえで駆除することが大切だそうです。また、日本に住むシロアリは、他にもカンザイシロアリなど外来種が多く入ってきているとの紹介がありました。講演の中で、特に印象深かったのは、毎年春になると現れる羽アリに関することです。羽アリとは、集団の個体数調整、つまりリストラされたシロアリという意味が大きく、羽アリのほとんどは死亡するか、他の生物にとって高タンパクの餌となるとか。どうしてもアリという言葉が頭から離れず、アリの「巣別れ」というイメージを抱いていた私にとっても、新たな発見が得られる貴重な機会となりました。

会場が最も聞きたいシロアリ対策の要とは、駆除と定期点検だそうです。木材の防腐防蟻処理とは、両者を折衷させた概念で、どちら側からも不十分な処理となってしまうとか。新築建物の対策としては、駆除と定期点検が容易に行えるような構造を確保すること、そうすれば例え加害されたとしても早期発見することで対応できるとの説明には納得です。また、昔からの知恵として建物の下の部材ほど心持ち材や固い木材を使う理由はシロアリ対策であることが述べられると、聴衆が頷く音が聞こえるようでした。建物が自然の中に建つ以上、否応なしに生き物との共生が必要となり、新築またはリフォームされた建物を加えた1つの生物バランスが生まれるまで、約10年以上の時間がかかるそうです。この間、生き物が環境の変化に適応しようと繁殖力を高める爆発的活動期に入るとか。イエシロアリの場合、駆除には巣を探すことが最優先であり、羽アリの飛散など、近隣の前兆現象を捉えることが有効だそうです。カンザイシロアリの場合、近所に生息している場合は、建物全体の予防は不可能と考えること、建物が倒れるほどの被害にはなりにくいので、点検と駆除ができる構造が大切であると説明されました。

会場からの質問として、今までシロアリどころか虫が嫌いで仕方無かったが、今日の講演を聴いて虫に愛着がわいてきた。なんとかシロアリと共生する選択肢は無いのかという質問などがあり、また会場が笑いに包まれました。神谷さんからは、伊勢神宮の式年遷宮がその答えになるかもとの回答を頂き、第1回目の木の家スクール名古屋2019は終了となりました。

(文責:清水)