2021年01月27日

木の家スクール名古屋2020 記念特別講演 1月23日(土)

庭園の鑑賞について -視点、方角などの差異から読み解く-

重森千靑(作庭家・庭園史研究家)

新型コロナウイルス感染症拡大が続き、木の家スクール名古屋の愛知県も緊急事態宣言下の中、重森千靑さん(作庭家・庭園史研究家)を講師に迎え「庭園の鑑賞について-視点、方角などの差異から読み解く-」と題したオンラインによる開催となりました。今回の講演に参加した人は、おそらく全員が「早く旅行に行きたい!!!」と強く感じたことでしょう。それほど、重森さんの話は魅力的な内容でした。
講演はまず、庭園が造られ始めた経緯から始まりました。庭園とは、建物を作る際に必ず付いてくる外部空間であり平安時代の公家文化による浄土式庭園、室町時代になると枯山水が登場するなど、庭園の歴史が簡単に紹介されました。そして、どの庭園でも鑑賞する際の最大のポイントは、見て楽しむことだそうです。鑑賞者の視点・方向の違いによって庭園の見え方はずいぶん違い、設計者が想定したベストの視点だけでなく、意図しない視点からもその美しさを引き出すことができるし、それが楽しいとおっしゃっていました。一方向から見ているだけでなく、左右に視線を向けたり上下させたりするのが良いと言われ、私の頭の中で庭園鑑賞のイメージトレーニングが始まりました。
視点以外にも、季節・天候、時間による変化で見え方が大きく変わること、例えば落葉樹の葉が落ちる冬などは、それまで樹木によって隠れていた山の稜線が出てくるなど、同じ視点でも変化が生じると言われ、納得です。重森さんは冬の飾りが無い庭園が好きで、全体を捉えることができるからだそうです。重森さん好きな毛越寺(岩手県)などの写真が紹介されてゆき、話題は桂離宮(京都)に移っていきました。
鑑賞するための要素をすべて網羅した庭園は桂離宮で、船から、回遊路から、建物内からの視点や、月夜の時間帯に観ても美しいなど、とっても考えられた配置だそうです。更に茶室などに入った際、周りの風景が見えなくても水音だけを聞かせ、音を楽しむという発想まであるので、是非一度訪れて欲しいとのことでした。
庭造りの最も中心的な題材は自然づくり、自然の豊かな山水風景が庭造りの大きな原動力となっているそうです。最古の造園書、作庭記には「自然の美しさに思いをはせて作りなさい」とあり、真似では無く思いをはせることが大事なのだと。最後に自分のお気に入りの庭園を訪れ、庭園というものが面白い姿を見せてくれることを見つけて欲しいという言葉で講演を終えて頂きました。本当にマスクを取って、自由に旅行に行ける日が一日でも早く戻ってきて欲しいと願わずにはいられない講演となりました。
聴講者からの質問は、建物と庭の設計ではどちらが先なのか、桂離宮の庭園設計者は誰なのか、庭園の樹木などが成長した際の建物との関係性をどうしたらよいのか、重森三玲さんのお勧め作品は何かなど多くの興味深い質問が寄せられ、重森さんが一つずつ丁寧に答えてくださいました。

(文責 清水秀丸)