2019年07月14日

木の家スクール名古屋2019 第2回:7月6日(土)①

今に活かす昭和の丁寧な暮らし

講師:小泉 和子 氏

(昭和のくらし博物館・館長、家具道具室内史学会・会長)

小泉先生は、家具や道具の研究がご専門。
その専門的な研究に加え、昭和25年に住宅金融公庫の融資の最初の基準に沿って、
建築家のお父様が設計して建てた家を、「昭和の暮らし博物館」として一般公開している。
「今は、畳も床の間も知らない学生さんが多く、驚くべき状況です」と、
「昭和の暮らし」の話が始まった。

昭和の時代、エアコンなどは無くとも、開放的な造りで、四季を通じて快適に暮らす知恵が昔の家には詰まっている。

例えば、暮には大掃除の為に、
①畳を外して干す、②障子を張り替える、③茶殻を撒いて畳を掃除する。④床の間の軸を変え、⑤鏡餅やお飾りを支度してお正月を迎える。

夏は風通しを大事にし、御簾やスダレを掛け、座布団にも夏用の麻やパナマでカバーを掛ける。
冬は火鉢や炬燵を出す。季節の変化に細やかに応じるには、蔵がないと暮らしていけない。
現在の住宅事情ではなかなか実現が難しいのがこの点だ。

使い勝手の良い魅力的な家とはどのようなものか。
縁側が有り、軒下が有り、汚れ仕事用の土間が有り、糠味噌を置く床下があり・・・と、
人の多様な暮らしの工夫を自在に受け止めうる応用性に富んだシンプルな空間と、
そこに人が季節のしつらえを小まめに施すことで実現される、魅力的で快適な空間こそが良い家なのだと説かれた。
また、こうしたしつらえがあってこそ日本の家は魅力的なものになりえるのであり、文化財級の建築であっても、
ただ建築を見せるだけではその真価が伝わらないとも力説された。

この様に、夏には夏の対処をし、冬には冬の支度をして、
暮らしやすさを確保してきた日本住宅の工夫を、『仕舞う』という本にまとめられたとのこと。
この他にも、暮らしの技術や工夫に関するご著書も多数出版されているので参照されたい。
最後に、「買うと人はバカになる」との名言とともに、
知恵と工夫と熟練した手技からなる「生活技術」を磨くことが人間力を高める大事なことなのだと講義を締めくくられた。

(文責:寺川)