2019年6月7日

木の家スクール名古屋2019 第1回:6月1日(土)①

中大規模木造に用いる製材を利用した工法への取り組み

講師:河本 和義 氏(NPO法人 WOOD AC・代表)

 

皆さま、こんにちは。今年も木の家スクール名古屋が始まりました。2019年の第1回目は、河本和義さん(WOOD AC)、神谷忠弘さん(岡崎シロアリ技研)を講師に迎え、スタートです。

河本さんの講演は、「中規模木造に用いる製材を利用した工法開発への取り組み」というタイトルで、ご自身の自己紹介から始まり、高品質な木造建物を多く建設してもらうために作成した「低コストマニュアル」の紹介、集成材ではなく製材を利用した大きな柱スパン工法の紹介や開発苦労話、普段から意識している構造設計のポイントなどを分かりやすく講演頂きました。

自己紹介では、恩師である村上雅英先生や、稲山正弘先生をはじめとする諸先生方との出会い、日本の山をよみがえらせるという目標をもってWOOD ACの設立に参加したことや、村上先生の言葉「皆と同じことをすれば、競争相手が多く苦労します。木質構造は競争相手が少なく楽しい人生がおくれます。」という言葉に込められた意味などが語られ、徐々に会場が温められていきました。

低コストマニュアル事例集の紹介では、床面積が少し大きな建物を設計する際、意匠設計者が「木造化するとコストが高くなる」というイメージを強く持つことから、木材を無駄なく使う建築物とすることで低コスト化をはかり、木造の設計施工増に繋げるポイントが示されました。木造化できるか否かの一番のポイントは梁スパンのチェックであり、製材を使いたい場合は4~6m程度の梁スパンで住宅用のプレカットが使用できるため低コストとなること、6m以上は集成材やトラスで対応出来るがプレカットが使えなくなったりすることで高コストとなりやすいそうです。その他、低コストにつながる設計のポイントとして、大きな梁スパンの空間を設計する場合、スパンの中央に柱を設置することは難しくても、スパンの端っこに柱1本を設置するだけで大きな梁断面を小さくすることができ、低コスト化に繋がるなど、実務者として数多くの構造設計を経験したことによる貴重な意見を聞くことができました。

 

製材を利用した工法の紹介では、岐阜県木材協同組合連合会を主体として開発した木造平行弦トラスなどが紹介されました。製材を利用した12mの梁スパンを実現するため、多くの構造・防耐火実験を行ったこと、トラスを設計する上のポイントはクリープであることがわかり、2年間も継続した実験を行い、より高い安全性を確認していることが紹介されました。また、ヒノキ製材を用いた門型ラーメン工法の開発を行うなど、コストという言葉を意識した商品開発を行っていることを強く感じた講演となりました。

最後に、河本さんが日頃より感じている構造設計の考え方として、建築基準法に示されている基準とは最低限のものであり、より高い安全性を確保するためにも設計で見落としがちな検討項目をチェックする必要があること、地震に対する検討に加えて数年毎に確実に来る可能性の高い風に関する検討も積極的に行っていくことが大事であることが語られて、講演を締めくくられました。

(文責:清水)


2019年4月4日

緑の列島 木の家スクール名古屋2019 受講生募集中!【受付終了しました5/26】

皆さま、こんにちは。
今年も木の家スクール名古屋の受講生を募集いたします。

「木の家スクール名古屋」は「木の家」のつくり方と暮らし、森と木の文化について学ぶ連続講座です。2003 年にはじまり、今年は17年目を迎えました。

​今年のテーマは、原点に立ち返り「森と木とくらしの持続可能性」です。森林のこれからや都市の緑、木を活かした建築の作り方、古い木造建築の再生などについて、学術的な観点とビジネスの視点から、皆さまと共に考えていきたいと思います。

★講義内容はこちら
https://kinoieschool.wixsite.com/nagoya/gaiyou

★お申込みはこちら
https://kinoieschool.wixsite.com/nagoya/jukou

お待ちしております。(文:田中)


2018年12月26日

木の家スクール名古屋2018 第4回:10月26日(土)②

フィールドワーク② :おはらい町の町並み保存再生

講師:高橋徹(高橋徹都市建築設計工房・主宰)

 

鄙茅(ひなかや)の後は、伊勢内宮のおかげ横丁に移動し、碁会所をお借りして高橋徹さんのレクチャーを伺いました。高橋さんは、伊勢おかげ横丁、おはらい町、のまちづくりに長年にわかってかかわってこられました。内宮は、現在年間580万人(H29)が訪れる観光地で、おはらい町は欠かせない観光ルートとなっています。しかし、まちづくりの取り組みを行う前は伊勢神宮内宮の鳥居のすぐ前にバスが止まり、参拝した後にはバスに乗って志摩などの観光地に移動をされていたそうです。当時のおはらい町の写真を見ると、確かに「シャッター街」のようにも見えます。

この状況を打破するために、1979年に地元組織を発足させ、赤福さんをはじめとした地元の商店経営者のみなさんと二人三脚で、様々な取り組みをしてこられました。住民、企業、行政とともに行ってきた、修景や建て替え、まちづくりのご苦労などの話はとても興味深いものでした。

おはらい町のまちづくりは、いろんな幸運にもめぐまれたそうです。通りの長さが街歩きに丁度よく、その先に駐車場をつくることができたこと。メインの通りと並行して川沿いの道があって循環も可能なこと、そしてなによりも熱心な人材と企業に恵まれたことだとおっしゃっていました。

 

建物の修景工事への支援は、補助制度ではなく、あえて低利融資の枠組みをつくり、活発化させたそうです。県、市、民間の事業、国の補助事業などを駆使し、連携させながら一体的のあるデザインが行われてきました。行政とも協力して制度づくりなどをおこなっています。おはらい町の通りに直行する細い路地(世古道)は2m程度ですが、これを4mに拡幅してしまうと街並みが変貌してしまうことから、道幅を変えずに建物をつくったり直したりできるような仕組みなどを整えました。また、前田伸治さんなど経験豊かな設計者を起用し、コアとなる建物のデザインがなされたこともよかったのだろうと思います。我が国の資産となるまちづくりがこのようにして行われてききたのだということがよくわかりました。

(文責:宇野勇治)


木の家スクール名古屋2018 第4回:10月26日(土)①

フィールドワーク①:鄙茅(ひなかや)と木の建築

講師:前田伸治(暮らし十職一級建築士事務所・所長)

10月27日、秋晴れのもと、木の家スクールのフィールドワークとして、三重県多度町の料理店「鄙茅(ひなかや)」と伊勢のおはらい町、おかげ横丁を見学に訪れました。まずは「鄙茅(ひなかや)」からご紹介します。

「鄙茅」は、宮川を見下ろす高台に位置する茅葺屋根の料理店です。道路から敷地に入ると、山々を背景として寄棟茅葺きの建物が茶畑のなかに佇んでいます。まさに、絵にかきたくなるような懐かしく、美しい風景です。これが新築で、数年前に建築されたとはにわかに信じられないようなはまりようです。設計者の前田伸治さんにご案内をいただきながら、建物を見学させていただき、レクチャーもいただきました。

 

大きくうねる宮川の絶景を望むこの場所に、江戸時代からあったかのような姿で堂々と構える「鄙茅」ですが、何年もかけて土地探しを行い、数年をかけて設計し、腕利きの職人によって一から造られるなど、大変な御苦労をされたとのことです。茅葺きのお店をつくりたいというオーナーの夢をかなえるため、都市計画区域外(茅葺きが建築可能)で、かつ景観が美しく、宮川が見え、広い土地を探すということは大変だったようです。

前田さんは、中村昌生さんに師事され、伊勢のおはらい町の建物も多く手がけられるなど、伝統的な建築手法に精通しながら、現代的な解釈と魅力にあふれた設計をされてきています。今回の鄙茅も、バランスのよい美しい寄棟茅葺のプロポーションを守りながら、さまざまなチャレンジをされています。

南側の茅葺き屋根を大胆にカットし、開口部をダイナミックにとることで、宮川と山の風景を堪能できるようになっています。また、茅葺屋根の小屋組みを、古民家に多くみられるサス形式ではなく、和小屋とし、これに細い磨き丸太を扇垂木状に掛けています。下から見あげると、小屋裏はとても軽快で美しい空間となっています。

左官の磨き仕上げをかまどやレンジフードなどに用いることで、和でありながら新鮮な雰囲気も感じられます。宮川に面して張り出してつくられた座敷も3面が開放されて気持ちのいい空間となっています。建物の宮川に面する側は盛り土として一段高くなっています。これは、宮川を望む際に、より上方から、クリアに見せる為の工夫で、見事に功を奏しています。伝統を踏襲しながら、随所に風景や空間を際立たせる工夫やユニークなアイデアが盛り込まれており、大変勉強になりました。

 

 

 

また、料理も大変手が込んでおり、季節感にあふれ、自然を感じられる大変美味しいものでした。お伊勢参りのぜひお立ち寄りください。おすすめです!


(文責:宇野勇治)


2018年10月1日

木の家スクール名古屋2018 第3回:9月22日(土)②

木構造のコンセプトとデザイン

講師:山田 憲明 氏 (山田憲明構造設計事務所・主宰)

続く第2部は、「木構造のコンセプトとデザイン」と題して山田憲明さん(山田憲明構造設計事務所)に講演を頂きました。山田さんは、大学を卒業された後、伝統木造も積極的に使われる構造家として有名な増田一眞氏に師事することで木構造の世界に関わるようになり、2012年よりご自身が代表を務める山田憲明構造設計事務所を立ち上げられました。木材は、古今東西最も多く使われている構造材料ではありますが、時代背景(法令、森林状態)により、多様な建築が生まれてきたこと、構造材料として課題も多いことの説明から講演が始まりました。

講演は、これまでご自身が設計に関わってきた多くの事例を紹介するかたちで進められました。建物を建設する上で大事なことは、構造システムの3要素(素材、接合、かたち)と、それら3つの親和性(性能、コストなど)であり、木造は鉄筋コンクリート造や鋼構造より多様な選択肢があるとの言葉には、会場の聴衆の中にも思わず首を縦に動かす人がちらほら。山田さんご自身も、「伝統と向き合う」ため、伝統木構造の考え方・技術や、要素技術の活用と発展を検討し、伝統木構造を生きた技術にする努力をされているそうです。大洲城天守(愛媛県)や本山寺五重塔保存修理工事(香川県)の設計では、フレーム解析や、時刻歴応答解析など、最先端の手法を使いつつも、太い柱と梁による木材のめりこみ剛性や、太い柱で考慮される柱傾斜復元力など伝統的な耐震要素にも着目された点がとても印象的でした。また、保育園で木構造をあらわしとした、わかたけ保育園(熊本県)の設計など、伝統的ではない木構造にも積極的に取り組まれていますが、あえて一箇所だけサクラの雇いほぞが見えるよう配置した事例が紹介されました。

次に、木構造の多様な素材と接合法について、「つくり方」を考えた設計事例が紹介されました。お施主さんからの様々な依頼に対して、想像と発想を駆使して解決された事例が次々に紹介され、どれも美しい形状のものばかりです。中には接合部が本当に収まるのか確認するため、実大模型を作ったお話や、建物の一部分を実際に建築し、大工さんと共に施工手順の確認まで行った話など、とっても興味深い内容ばかりです。

最後に、大空間への挑戦として、国際教養大学図書館「中嶋記念図書館」(秋田市)や大分県立屋内スポーツ施設(大分市)が紹介されました。山田さんは、日本だけでなく世界でも木構造の要素技術がうまれており、とても良いことだが、設計の自由度が高まることは難しくなることを意味している。今後も構造システムの3要素を統合していくことが、構造デザインの本質であると言われ、安全な木構造を作り続けていくことの大切さを改めて感じながら、講演を締めくくられました。

(文責 清水秀丸)