2019年06月07日

木の家スクール名古屋2019 第1回:6月1日(土)②

なぜそこにシロアリがいるか

講師:神谷 忠弘 氏(岡崎シロアリ技研・代表)

 

第2部は、「シロアリの生態と対策 シロアリはどこから来るか」というタイトルで神谷忠弘さん(岡崎シロアリ技研)に講演を頂きました。神谷さんの講演は、様々な学問分野の見識を織り交ぜたものとなりましたが、会場からは定期的に笑い声が聞かれる、良い意味で質の高いエンターテイメントを見ているような賑やかな講演となりました。

シロアリとは、湿気によって湧いて出る生物ではなく、和漢三才図会にも登場する一般的な土壌生物であり、シロアリの8割を占めるヤマトシロアリはもともと多くの土地に生息すること、2割のイエシロアリは限られた地域に生息するとの説明が最初にありました。シロアリ対策の元来の対象種はイエシロアリだけであったこと、加害規模は世界一であること、間違ったイエシロアリ駆除は意味がなく、シロアリの特徴・生態を理解したうえで駆除することが大切だそうです。また、日本に住むシロアリは、他にもカンザイシロアリなど外来種が多く入ってきているとの紹介がありました。講演の中で、特に印象深かったのは、毎年春になると現れる羽アリに関することです。羽アリとは、集団の個体数調整、つまりリストラされたシロアリという意味が大きく、羽アリのほとんどは死亡するか、他の生物にとって高タンパクの餌となるとか。どうしてもアリという言葉が頭から離れず、アリの「巣別れ」というイメージを抱いていた私にとっても、新たな発見が得られる貴重な機会となりました。

会場が最も聞きたいシロアリ対策の要とは、駆除と定期点検だそうです。木材の防腐防蟻処理とは、両者を折衷させた概念で、どちら側からも不十分な処理となってしまうとか。新築建物の対策としては、駆除と定期点検が容易に行えるような構造を確保すること、そうすれば例え加害されたとしても早期発見することで対応できるとの説明には納得です。また、昔からの知恵として建物の下の部材ほど心持ち材や固い木材を使う理由はシロアリ対策であることが述べられると、聴衆が頷く音が聞こえるようでした。建物が自然の中に建つ以上、否応なしに生き物との共生が必要となり、新築またはリフォームされた建物を加えた1つの生物バランスが生まれるまで、約10年以上の時間がかかるそうです。この間、生き物が環境の変化に適応しようと繁殖力を高める爆発的活動期に入るとか。イエシロアリの場合、駆除には巣を探すことが最優先であり、羽アリの飛散など、近隣の前兆現象を捉えることが有効だそうです。カンザイシロアリの場合、近所に生息している場合は、建物全体の予防は不可能と考えること、建物が倒れるほどの被害にはなりにくいので、点検と駆除ができる構造が大切であると説明されました。

会場からの質問として、今までシロアリどころか虫が嫌いで仕方無かったが、今日の講演を聴いて虫に愛着がわいてきた。なんとかシロアリと共生する選択肢は無いのかという質問などがあり、また会場が笑いに包まれました。神谷さんからは、伊勢神宮の式年遷宮がその答えになるかもとの回答を頂き、第1回目の木の家スクール名古屋2019は終了となりました。

(文責:清水)