自然エネルギーで自己完結する家を作ろう
第二部 講師:O. バルテンシュタイン氏 (工学博士 エコライフラボ統括責任者)
バルテンシュタイン氏は、自然エネルギーでのエネルギー自給自足の家の作り方を考案されています。そして、建築は肌や服の次に身近な環境だからこそ、快適さと安心を地域の資源で実現したいと考えられています。
今回は、原発と化石燃料に依存しない快適な家の可能性・技術・設計のポイントをお話下さいました。
◆エネルギーについて◆
講義は、私たちが日々使用しているエネルギーの話から始まりました。
・原子力発電で発生するプルトニウムの半減期は24000年、1000世代を経てやっと半分という時間です。そして機械はいつか壊れ、事故にも会います。このように副産物を生むエネルギーを使用し続けてもいいのでしょうか?
・石油エネルギーは日本の資源ではありません。原油国は内戦が多い地域でもあります。石油の売買で得た利益がその国の国民に還元されているでしょうか?
・日本では、電気エネルギーの購入は自由ではありません。私たちは、太陽光・風力・水力・火力・原子力、どの電気を購入するか選択は出来ず、販売会社も限られ、価格に競争もありません。
・今は、家電製品ではエネ性能が消費者の購買決定意識に大きく影響しています。自動車の燃費性能も同様です。しかし、住宅ではエネルギー性能を表記して販売する会社はありません。
私たちはこのようなエネルギーの消費方法を、受け入れてしまっています。
そして現在の住宅では、石油エネルギーや原子力エネルギーの使用を拒否する事はできないのです。
日常で使用するエネルギーを分類すると以下のようになります
・必要不可欠なエネルギー
→ ペースメーカー 等、生命の維持に必要な物
・常備したいエネルギー
→iPAD・照明・テレビ・携帯 等、災害・震災後直ちに使用したい物 次いで浄化槽・冷蔵庫 等
・快適な生活に必要なエネルギー
→ ガス給湯器 エアコン 掃除機 ドライアー IH調理器 等
自給自足住宅のエネルギー源は、自然にある太陽光・太陽熱(日光・直接光の事)から得る方法と、太陽光発電・薪ストーブ・バイオマスボイラー等の設備から得る方法があります。
そして使用する時は、エネルギー源をハイブリッド化する方法が考えられます。太陽熱を主体熱源とし、薪ストーブを補助熱源、化石燃料を二次補助熱源とするのです。

◆エネルギー自給自足住宅について◆
エネルギー自給自足住宅の基本的な考え方は、断熱により、冬は熱を外に出さず、夏は熱を中に入れない事です。そして、熱交換器などを利用し、換気・排水により流出する熱を回収・再利用する事で、必要なエネルギー量を最小限にする事です。つまり、設備機器による省エネ化ではなく、建築そのもので行う省エネ化に、エネルギー自給自足住宅の実現があるのです。
・太陽光の利用 → 太陽の光そのものを光として利用する。
・断熱・遮熱・機密性 → 冬は熱を逃さない・夏は暑さを入れない。(基礎・壁・屋根すべてに断熱を)
・換気計画 → 温度・湿度の制御をする。日本では特に夏の湿気が問題となる。
換気は熱交換器を使用し、室内の温度を保つ。(90%回収できる)
一般住宅の場合、床下換気からの熱損失も大きいので対応する。
・排水計画 → お風呂等で排水されるお湯を、床暖房・上水の加温に利用。
冷房・暖房の考え方を次のようにします
部屋が寒い時 → 基礎・壁・屋根のすべてで断熱、土間スラブ床暖房なども利用し、躯体で暖房をする
部屋が暑い時 → 基礎・壁・屋根のすべてで遮熱、エアコン等で中の空気を冷却する
次に、エネルギーの備蓄を考えます。
戦略的には、バイオマスで長期備蓄、蓄熱タンク・バッテリーで短期備蓄を行います。バイオマスには、薪など、身近にある自然の材料での備蓄が適しています。またエコライフラボでは、住宅用ではありませんが、小型木質バイオマスコージェネレーションによる熱と電気の長期備蓄可能な設備が実用化されています。
このような考え方で設計された住宅・施設では、気候・地域性・季節により影響がありますが、高い自給自足率を達成されています。講義の中では多くの実例を紹介して頂きました。
バルテンシュタイン氏は講義の中で、「震災・災害のように何か不測の事態があった時にも、独立自給型のエネルギー源で、照明・電話・テレビ等が使用できれば、人々の安心は増し、情報の伝達もスムーズになります。関東大震災後、基礎設計を担当した施設では、避難場所となる部屋に薪ストーブを設置しました。いざという時の為に、エネルギー源をヒューマンスケールの技術でもって、分散し、地域化し、多面化する事は大切です。現代は、人の寿命が延び、ライフスタイルが変化して、住宅に対する要求が多くなってきました。住宅そのものを快適で、より良くする事は大切です。視野・意識・モラルを広く持ち、住まいで使用するエネルギーについて考えていかなくてはいけません。」と、お話しされました。
(文責:田中寛子)