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2011年5月25日

緑の列島 木の家スクール名古屋2011 第一回第二講座 高橋昌巳氏 “分離発注 建て主直営という家づくり”

緑の列島 木の家スクール名古屋2011

 第一回 

高橋昌巳

 

二コマ目は、 “分離発注 建て主直営という家づくり”のテーマで、

 シティー環境建築設計の高橋昌巳さんにお話を伺いました。

 

家を一軒建てるには、基礎、大工、左官、瓦、水道、電気などなど、

十数種の職人の協力が必要です。

今は工務店や建設会社に頼んで家を建ててもらう方式=一括請負方式が主流ですが、

その他には、自分で建てる自力建設方式と

建て主が個々の職人に仕事を発注する分離発注方式があります。

 

家の建設に参加したくとも自力建設には時間も体力も知識も必要。

ならば、設計者が協力することで、住まい手も家づくりに参加できるのでは?と、

分離発注方式をはじめたとのことですが、設計者側の仕事量は相当なようです。

 

高橋さんが実現したい家づくりの仕組みとは、

①    見えるようにすること

:お金の流れ、材料、作業工程、職人の顔、応援体制

②    言えるようにすること

:使いたい素材、参加して欲しい職人、費用分配、工期

③    公平に責任を負担すること

:建て主は現場確認と維持管理、設計者は安全性と景観意識、職人は使用素材と納まり

④    時間と手間をかけられること

 :ゆっくり、丁寧に、楽しみながら、記憶に残る出来事となるように、

⑤    同じ目標に向かい

 :依頼する、依頼される意識が目標を共有するチームとなり

⑥    経験をひろげていけること

 :知り合いや同業者に家づくりを公開し、完成をともに味わい、手入れを応援する

 

そんな家づくりをマネージする設計事務所は、各職方が見積りをし易くする為に数量の拾い出しから、残材処分費、コーキング、運搬、養生費などを誰がやり、いくらかかるかをこと細かく見積る。それでも見積り落とし部分は、設計者が自ら施工することもあると。

 

そこまで苦労して分離発注方式にこだわるのは、職人の知恵と技術を引き出し、新しいことにチャレンジができる環境がこの方式には残されているからだろうと、「人財産」を築き上げつづける高橋さんの満足げな顔を見て納得しました。

 

予告:伝統的工法は住宅瑕疵担保法には馴染まない事から、GIOとシティ設計事務所は包括3条認定を結び、伝統的仕様での納まりを可能にしたそうです。その納まり図面集を木の家スクールに提供してくださるので、HPで見られるようにします。乞うご期待。

(寺川)

  動画    木の家スクール名古屋 20110514 NO2


緑の列島 木の家スクール名古屋2011 第一回 古川泰司氏 “住まい手の家づくりへの関わり方” 

第1回 木の家スクール名古屋2011

 

今年度初日の講義は、

“住まい手の家づくりへの関わり方” をテーマに、

二人の講師をお招きして『ハーフビルド』、

『建て主直営』という切り口で講義を開きました。

 

 

 

まずはじめは、 “住まい手参加の家づくりのために” と題して、

アトリエフルカワ一級建築士事務所の古川泰司さんに、

『ハーフビルド』の家づくりについてお話し頂きました。

 

 

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『ハーフビルド』とは文字通り、

半分だけ家を完成させて、あとは暮らしながら進めていく家づくり。

自分では手に負えない『大きな仕事』と、

自分でできる『小さな仕事』に分けて、

まずは最小限の生活ができるシンプルな箱をつくっておく。

その後、生活をしながら自分達の暮らしに合わせて、

家を育てるようにして進めて行く家づくり。

と、古川さんはそう捉えています。

 

そのメリットは、初期費用が少なくすむために、

家づくりのハードルを少し低くしてスタートすることができること。

そして、その後の『小さな仕事』を進めるに従って、

充実感や自分達に会った家を見付ける楽しさを味わうことができること。

またその経験は、後のメンテナンス時にも役立つでしょう。

 

かつての家づくりは、地元の材で地元の職人をはじめ、

“結い”などによる地域の人との関わりの中で、ゆっくりと進められていました。

一方、現代のそれはビルダーの専門領域となって工業化も進み、

とても速いスピードの中で、まさに “生産” されて行きます。

施主が関わる隙は愚か、立ち入りを制限されている現場も有ると言います。

その結果、現代人の生活と住まいに『ずれ』が生じているのではないかと、

古川さんは危惧しています。

 

家づくりを、もう一度住まい手の元に取り戻したい。

古川さんは『ハーフビルド研究会』を立ち上げ、

技術的な研究から、設計や施工に関する講座を開く活動も展開しています。

 

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ハーフビルドの教科書として出版された「住宅工事現場写真帖」(エクスナレッジ)

 

文 丹羽

動画リンク     木の家スクール名古屋 20110514 NO1


2011年4月9日

2011/04/09  2011年度 木の家スクール名古屋 受講生募集中!!

今年も、募集開始です

毎年、あっというまにこの季節ですね

震災関連のニュースの中、木造の構造から、山の話まで

学ぶことが、年々深まってまいります

今年も、是非、ご一緒に学んでいきましょう

募集要項PDF

http://kinoie.web.nitech.ac.jp/images/Kinoie-flier2011.pdf

申込はこちらです

http://kinoie.web.nitech.ac.jp/index-moushikomi.html

緑の列島木の家スクール名古屋HPです

http://kinoie.web.nitech.ac.jp/


2010年12月27日

木の家スクール名古屋 豊田森林見学会 講師ー北岡明彦 豊田市森林課

人工林の管理いろいろ -管理放棄するとどうなっちゃうの?-

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北岡明彦氏   

 豊田市森林課

北岡氏は、豊田市森林課職員でありながら森林の動植物の生態に精通したエキスパート。市民に向けた体験教室や植林会など積極的に行われています。今回は、受講生の皆さんともに足助の森に出かけ、フィールドワークを行いました。

けもの道のような急勾配のルートから山に分け入ることところからはじまりました。見学させていただいた森は、人工林と天然林、間伐林と放置林など森林の複数の様相を見ることができるようになっています。

 

 

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今、日本中の人工林における間伐手遅れが大きな問題となっていますが、そうなることでどういった弊害が生じるのでしょうか。間伐手遅れ林は樹木が立て込んでおり、光がささず下草が育たないことはよく知られていますが、土壌破壊のメカニズムについて今回知ることができました。
樹木の枝葉に雨があたるとより大きな雨粒として落下します。下草があれば破壊力は拡散されますが、これがない場合には直接地面に大きな雨粒が当たり、どんどん土壌を洗い流し、侵食してしまいます。土壌は毎年わずかずつしか増してゆきませんから、みるみる木の根が露出するような状況になってしまうのです。
ヒノキは高さが15mくらいあっても根の深さは30cm程度と大変浅く、土砂崩れになりやすいと言われています。深層崩壊はどんな根でも防ぐことは困難ですが、間伐が浅層の土砂崩れの抑止につながることがわかりました。

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間伐の一手法である「巻き枯らし」の現場を見せていただきました。
スギやヒノキなどは、樹皮のすぐ下の層で水吸い上げが行われます。その皮を剥いで水を吸い上げられなくしてしまい、立ち枯れを人工的に生じさせる方法です。
昔も行われた方法ではあるそうですが、本格的に実施されてからはまだ8年。まだわからないこともあるそうでうですが、効果は出始めています。立ち枯れすると、葉が落ち、足もとに日が射すようになり、下草が生え始めます。
巻き枯らし実施の森と、見施業の森を比較すると、明るさも下草の様子も大きく違うことがわかりました。

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最後に、巻き枯らし実施後の森において、5m四方をロープで囲い、その中に何種類の植物があるかというクイズを出されました。
その後実際に北岡氏は植物の名前を次から次へと様々な植物の名前を見事に言いあげて下さいました。結果、48種類の植物がみられました。しかし、これも巻き枯らし間伐で明るくしたからこそ植生が豊かになったのであって、間伐を行っていない真っ暗な森では6種類くらいなどとても少ないのだそうです。

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豊田市は年間1500haくらいの間伐を実施しているそうです。今後は、行政、市民、企業が協力して森林の維持をしてゆかなければなりません。
北岡氏は、森林はもはや業ではないのではないかとも。どうしてゆけばよいのか、極めて難しい状況にある。今伐っても植える人がいない。そして、今後30年したら100年生の木はたくさんあるが、30年生、50年生の木はないといういびつな状況になる。植えるなら今かもしれない、しかし植えたとしてもメンテナンスが要るので、業になるかどうか…。


2010年9月24日

2010/9/18 木の家スクール名古屋 一般公開講座 開催しました(藤岡伸子氏)

「木の文化の国に生きること-歴史的理解から未来へ-」-と題して、

名古屋工業大学大学院 藤岡伸子教授 に講義をいただきました。

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いつもは木の家スクール名古屋の運営を担っている藤岡先生ですが、研究者としては比較文化論・美学を専門とされております。

 今回は、人と自然との関わりの変遷について、世界史的観点から洋の東西を超えて概観しながら、特に日本で古くから培われてきた木の文化の独自性と未来への展望について話していただきました。

 17世紀のヨーロッパで近代科学が誕生し、それを武器とした近代主義がその後の世界を席巻しました。

その根本想定は、自然から、崇高さや生命の煌めきなどの精神性を徹底的に排除した、それまでの世界史上まったく類を見ない機械論でした。

自然界の究極の姿は物質であり、その機械仕掛けの自然界は、人間の利益のために如何様にも改変してよいとされたのです。

 以来、より多くの物質的富が、より効率よく、より少ない労力で、より早くもたらされることが求められ続け、やがて産業革命にいたります。近代の始めには、人間に幸福をもたらすと期待された新しい世界観は、結局、自然環境と人間の内面に深刻な打撃を与えるような本質的欠陥をもっていたことに私たちは徐々に気付くことになります。

 我が国では、明治以降の急激な近代化とそれに伴う社会構造の変化の中で、古代から培われてきた木や森を仲立ちとした自然との親密な関わりが失われ、いわば文化的な迷子となったまま、物質的な富の追求に翻弄されてきました。

水と緑あふれる自然環境は大きな痛手を負い、地方の地域社会も壊滅寸前の状況です。

世界では、1960年代以降、近代主義に疑問が投げかけられ、徐々に生態系中心主義への転換が唱えられるようになって今日に至っています。

今や西欧においてさえ、それぞれの地域文化や伝統に立ち返ることで、近代主義を乗り越える道を模索しています。

しかし、理念抜きで近代化を急速に推し進めた日本では、特に日常生活における伝統文化との断絶が他に例を見ないほど深刻です。

 これからの時代を私たち日本人はどのように切り開けばよいのでしょうか。

藤岡先生によると、伝統社会ではごくあたりまえだった小スケールの地域社会や、生きる手応えを強く意識できる(ローテクな)適正技術がキーワードになるのではないかとのこと。

日本の自然史的背景や歴史、そしてその最も特徴的な木の文化を再読しながら、これらからの社会の在り様を考えてみたいと感じさせる講義でした。

生態系と持続可能社会についても議論は波及しましたが、この9月に出版されたばかりの

訳著「生態系サービスという挑戦-市場を使って自然を守る-」

 名大出版会、 3400円+税)に詳しく掲載されております

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