特定非営利活動法人 緑の列島ネットワーク設立趣旨書(1999年)

大小3700以上の島々が南北3000キロにわたって弓状に連なる日本。そこは約70%が山という緑の列島です。
私たちは古来より、この山の恵みをうけ、暮らしを育んできました。山の幸、水が育む幸、そしてもちろん木々の恵み。木づくりの家々は「近くの山の木」という地域資源を活用して建てられてきました。

しかし今、この緑の列島の木材自給率は2割に低下し、日本の歴史ある育成林業は、割高なコスト、販売不振、人手不足などでたちゆかなくなり、多くの地域で、手入れもままならずに疲弊、荒廃する状況にいたっています。過度の伐採によるものではなく、木が使われず、逆に放置されたがゆえの、山の荒廃という不思議な現象です。

緑の列島の多くの家々は、残念なことに今では「近くの山の木」では建てられず、消費される木材の多くは、時間と運搬エネルギーを費やして遠く海を越えてやってくるようになりました。熱帯や北方からの安価な輸入材で緑の列島の家々はつくられ、しかも短いサイクルで消費されるようになっています。

日本の森林の多くは、人手が十分に加わり管理されることでその健全な姿を保ってきました。山の斜面を保全するとともに、水を貯え、その滋養を含んだ水は、肥沃な平野をつくり、沿岸の海の生態の豊かさを生み出してきましたが、山の荒廃は、こうした保全と循環をも危うくしています。

緑の列島ネットワークは、この不健全な山の姿、山の危うさに目を向け、山の資源の循環的な活用を通して、健全な自然環境と地域経済の再興をめざしています。私たちは皆さんに山の持つ意味や資源としての価値をよく理解してもらい、緑の列島の一員であることを自覚した「緑の消費者」(グリーン・コンシューマー)になってもらいたいと考えています。そのための核となる活動として、緑の列島ネットワークは「近くの山の木で家をつくる運動」を提唱することにしました。

木材を生産する山と、その多くを住まいとして消費する町。私たちは、この山と町の人と資源を、スクールの開催や人材育成事業など実効性のある取り組みを通じて、つなぎ、むすび、互いの理解が深まるように努めます。

地域資源の循環型活用と地域経済活性化の後押しをするとともに、全国各地で今すでに起こっている、また起こりつつある、近くの山の木で家をつくる運動のさらなる広がりをめざし、この運動の交点に立って、研究・教育・情報共有の場としての役割を果たしていきたい、と考えています。国産材による家づくりが可能な新しい社会システムの構築こそ、健全な山を取り戻す近道なのだと信じます。

設立趣旨書をめぐって(2004年1月)

緑の列島ネットワークでは、「消費者」という言葉を用いるのをやめよう、と思います。川上で木を守っている山の人も、川下の町で暮らす人も、木を使って家を建てることで川上と川下をつなぐ役割をする可能性をもっている建築の人も、みな同じく、山が健全に保たれることできれいな水や空気が維持される、同じ環境の中に生きる「生活者」としてとらえたいと思います。

立場はちがっても、同じ「生活者」として、環境を守っていく責任がひとしくあります。そして、そのためのいちばんの有効な方法は、立場のちがう生活者同士が、それぞれの立場でできることを考えていくこと、立場を超えて手をつなぐこと、それによって、川上と川下とがつながることだと考えます。

「宣言から実践へ」をかかげたこの2004年の新春から、緑の列島ネットワークは、全国で個別に展開されている運動の「情報プラットフォーム」としての役割をより強化し、川上と川下が、全国各地の運動が、互いにつながりやすくなることをめざします。

会員からの発信や、グループ活動ができる仕組みもつくっていきますので、会員のみなさん、ぜひこの仕組みを活用して、あなたの流域を豊かなものにしていってください。まだ会員になっていないみなさん、ぜひ、この運動に参加してください!

2004年1月1日
緑の列島ネットワーク
新理事長 大江忍