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2012年7月25日

木の家スクール 名古屋2012 第1回:5/26(土)

「建築環境技術の基本を再考する」

 

一部 講師: 宿谷昌則氏

 

東日本を襲った大地震が引き金となって生じた原発の破壊は、社会に潜んでいたさまざまな問題を一挙に露わにするまさに人災であったと言えるでしょう。これからも起きるであろう天災に備えつつ、天災に起因して起こる人災を最小化する知恵を共有することが大人たちの果たすべき責務との視点から、建築環境をより豊かになるように改変していく鍵をお話いただきました。

まづは日本国勢図会2011/12を見ると、原発がなくても、日本の発電設備容量の総計が不足したことは未だかつてなかったことを示している。但し、需要が集中している大都市では、電力不足が起きる可能性があるので、発送電を分離し、適正な規模ごとに自律的に電力需給が満たされる仕組みを備えることが重要。人の体に優しい環境づくりは、パッシブ型技術を基本とすることで始めて実現する。

人の体には本来体温調節機能が備わっている。体温37℃を保つためには、暖房で空気を暖めるより、周囲の壁・床などを暖める方が人体のエクセルギー(消費エネルギー)を小さくできることがわかっている。建築外皮の断熱性の向上が人体のエクセルギー消費を小さくする=「不快でない」ということである。夏場は建築外皮の断熱性向上に加えて、窓からの熱を取り込まないように日射遮蔽と、室内での余計な発熱を予防することが重要である。

 

「再生可能エネルギー利用の世界事情」

 

二部 講師: 岡本康男氏

 

原発事故の後、日本では太陽光発電を勧める声が大きく上がっていますが、発電は昼間、使うのは夜間ですから、自家用に使えるのはせいぜい1/4。おまけに修理、点検が必要ですから、家庭用太陽光発電はコストに見合いません。それより太陽熱を利用してお湯を沸かす方が理にかなっています。世界では、風力についで発電量が多いのは太陽“熱”発電所です。たかが給湯や暖房に貴重な化石燃料や、未だ危険な原子力を使い続けるのか、各自が考え、選択しましょう。世界では業務用大型ソーラーシステムが胎動し始めています。

(文責 寺川千佳子)

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2012年3月14日

緑の列島 木の家スクール富山2011 第5回 大工の実践/山と木の話

緑の列島木の家スクール富山2011、早くも最終回です。3月10日に第5回の講義を開催いたしました。
今回は、お二人の講師をお招きして2つの講義です。
1つ目は、こだわりの大工棟梁の実践例として滋賀県にある宮内建築の宮内寿和棟梁。
2つ目は、山と木の話と題して林材ライターの赤堀楠雄先生の講義。
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まずは、宮内棟梁から。
棟梁のこだわりとして・・・。
一般的には設計は設計者、建てるのは大工という関係が多いが、宮内棟梁の場合は設計者と大工の協働作業で造っている。
それは、建築主の要望や設計者の考えなど、どうしてこういう間取りになったのか、どうしてこの形・デザインになったのかを実際に造る大工も知らなければならないからである。
現場では、図面通りに造るのはもちろんのこと、図面以上のものを造ろうと思っているのだと。
そういう風に、設計者と大工の協働で造る家を紹介していただきました。
1軒目の建築主は、板倉の家にしたい・石場建てにしたい・金物は使いたくないという要望。
この要望から、まず石場建てにするには限界耐力計算をする必要がある。板倉の壁にして金物を使わないとなると、工法を一から考える必要がある。
ということで、考え出した工法が挟み梁工法だった。
それは、4寸角の柱を同じ大きさの4寸角の横材2本で挟み込むという工法であり、柱の断面欠損をなるべく少なくしてめりこみを活かすという仕口が特徴。
これを、数々の実験で耐力を実証して、挟み梁工法の家が完成した。
2軒目の例は、築200年の蔵を改装して住宅にした実例。
3軒目は、景色の良い郊外で建てる開放的な家。この家も挟み梁工法によって、建築主の要望を実現した家。
以上、設計者と大工の協働で造った3軒の家の紹介。
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次に、水中乾燥の話。
一般的な柱には背割りが入っている。これは強度的な面も含めてどうなのか? しかし、背割りがないと自然な割れが入ってしまう。
この割れを何とかしたいということで、いろいろ調べてみると水中乾燥すると、割れが入らないらしい。
これをすぐに試してしまうのが、こだわりの宮内棟梁。
結果としては、水に入れて1年そして井桁乾燥および製材後の天然乾燥をすると・・・、含水率は13%に。(当然ばらつきはあるが20%以下に)
こうして、本格的に水中乾燥に取り組むことに・・・。
3枚目の写真は、宮内棟梁の講義のあと休憩時間の間に、挟み梁工法の家の模型を受講生の方々が興味深く見ているところ。
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2つ目の講義は、赤堀先生による山と木の話。
山という意味では、日本の林業の現状の話から。
林業=森林マネジメントの方向性が変わってきている。林業とは人森とのかかわりであり、立木の価値を高めることが林業経営の目的であった。
しかし、丸太の価格が下がっているため、経費=マネジメント費用(作業にかかる経費)を差し引くと、立木価格=所有者収入が減っている。
木材の自給率が外材に押されて、2000年で過去最低(18.2%)となり、その後は上昇して30%近くに。価格が下がっている(利益が少ない)のに、生産量が増えているという現状になっている。
森林所有者の利益(立木代金)確保が二義的になり、マネジメント自体が目的化していく。つまり所有と経営の分離が増大。
そうなると、立木・丸太の高付加価値化への意欲が薄れ、森林所有者による林業経営からマネジメント林業へ移行する。林業収入は立木代金からマネジメントの対価となる。
マネジメント林業に従事する林業経営者はビジネスとして成立するが、土地を提供する森林所有者の利益が確保される保証はない。
経営スタイルとしては、労働多投型から粗放化(手のかからない施業)していく。
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しかし、「木を見る」「木を見て使う」ことを大事にしないと粗放的な森林経営ばかりになる。
立木代金を得るために木の価値を上げたいと思っても、どんな木でもいいから量だけ・利用の機会を増やすだけなら、付加価値は不要。
所有者への還元は二の次であり、利用者(伐採業者・製材・住宅メーカー)が利益を得る。
結果、所有者が精魂込めるのではなくできるだけ手をかけない森づくりが行われるようになる。ますます、所有と経営の分離が進むことに。
そうならないように、「木を見る」ことで価値を引き出せる利用を大事にして所有者が森づくりの意欲を持てるようにするべき。
「木の個性」「木の良さ」を活かした利用を創出し、林業が継続・受け継がれるように。より多くの良質材が確保されるような施業や素材生産(造林)に力を入れるべき。
こういう意味で、木の価値を引き上げる利用例の紹介をしていただきました。
また、地域材の生き残り・差別化として、木材コーディネーター・木材アドバイザーなど木材関連の資格・講座が人気になっている。
求められていることは、木材の適切な利用をコーディネートできるスキル・川上〜川下までの幅広い知識・木材に関する知識、これら一段上のスキルで差別化を図ること。
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次に木の話としては、どんな材料が適切なのか、乾燥材とはどういういものか、JAS認定材などについて。
特に乾燥に関しては人工乾燥による内部割れの問題や劣化の問題などについて話をしていただきました。
まとめとして、ユーザーの住まいのニーズは、低所得化を背景にコスト意識がシビアになるが、質的満足への要求は強い。
とことん良いものを求めたいユーザーに対して、「お待たせしました」と言い切れる自信と完成度が必要。
という赤堀先生の山と木の話でした。

今回の講義では・・・
設計者と大工とが協働で造りあげるこだわりの家に学ぶべきところがたくさんありました。
山と木では、設計者・施工者は山と木のことをもっとよく知り、林業関係者は建築のことを知らなければなりません。
これこそが、このスクールの最大の目的であります。
川上から川下まで一緒にお互いのことを勉強することにより、山が元気にそして住まい手が安心して暮らせる家が増えるように。

今年度の緑の列島木の家スクール富山の受講生の内訳は、設計者50%・施工者40%・大工10%。
林業側としては、材木屋さん1人だけ。(この材木屋さんは、熱心に全部受講してくれました。)
このように、林業関係者が少ないのです。宮内棟梁は、大工さんももっとこのスクールに来ないと・・・。
今年度受講された方は、スクールで学んだことを実務で活かしていただきたいと思います。
また、まわりの実務者の方々にも、特に大工さんや林業関係者にも声をかけていただければ幸いです。
木の家スクール富山、木の家スクール名古屋も、このスクールを続けていきますので来年度もよろしくお願いします。

緑の列島木の家スクール富山事務局 草野鉄男


2012年2月28日

緑の列島 木の家スクール富山2011 第4回 木構造レベルアップ講座Ⅱ

2月25日、緑の列島木の家スクール富山の第4回講義を開催いたしました。
今回の講義は、木構造レベルアップ講座Ⅱとして、木造軸組構法構造計画の基本編と伝統的構法の木造住宅に関する講義。講師は、工学院大学建築学部建築学科教授河合直人先生です。
基本編では、木造建築物の耐震設計法と題してお話していただきました。
耐震設計で重要なのは、壁量・壁の配置・接合部・水平構面・基礎地盤の5点。その中でも、特に壁量が最重要である。
過去の地震の被害と壁量の関係より、床面積当たりの壁量が多いと被害が少なくなる。
壊れやすい建物としては、間口方向に壁を設けにく狭小間口の建物や道路に面して開放的な店舗併用住宅など、いずれも壁量が少ないから。
狭小間口の家で、壁量が少ないのだがわずかな筋かいが入っていたことによって、被害が軽微だった家もある。そういう意味でも、まずは耐力壁の量が重要。
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その次に、その耐力壁が有効に働くためには・・・。
①壁の配置にも要注意、②接合部(筋かい端部・柱の上下)はきちんと、③床や屋根(水平構面)もしっかりと
①壁配置のバランスが悪いと→働かない壁が生まれる→全体として弱くなり→変形の大きい方から崩壊する。
②接合部の重要性は、耐力壁両端の柱上下を接合→耐力壁の回転防止→耐力壁本来の力が発揮される。
③水平構面は、地震や風の力を耐力壁に流す働き、部分的な変形の増大を抑える働きがあり、特に耐力壁の配置が悪い場合に重要となる。
その他、基礎も同様に重要。
耐力壁による柱の引き抜き→柱を土台に緊結する→土台を基礎に緊結→基礎は剛強であること。
地盤の重要性とは。
地盤が軟らかい→揺れが大きくなる→もともと弱い住宅が倒壊する。
以上、木造建築物の耐震設計の要点。
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そして、東日本大震災における木造建築物の被害について、いろいろな被害例を見せて下さいました。
震度7あった地域でも割と揺れによる被害は、阪神大震災に比べると少ない。
木造建築物は、長い周期(1〜2秒)の揺れに弱いが、この地震は短い周期であったため被害が少ない。(阪神大震災は長い周期)
ただし、一部の地域で被害が大きいところもあった。それは、地盤が悪いために周期が長くなっている地域である。
東日本大震災における木造建築の被害のまとめ。
まずは、地震動による震動被害では。
被害は広範囲にわたり、被害形態も建物の種類・地域性・地震動の特性により極めて多様。
被害原因を大別すると、上部構造の振動被害と地盤変状に伴う被害に分けられる。
住宅の倒壊や大破などの甚大な被害は、北関東から東北の広い地域に点在。河川の流域など軟弱な地盤で、耐震要素の少ない建物が倒壊・大破に至っている。
地盤がらみの被害は、傾斜地、特に宅地造成地における地滑りや擁壁の破壊に伴う住宅等の倒壊や大破と砂質地盤の液状化に伴う上部構造の全体傾斜や沈下が目立つ。
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次に、津波による被害は。
津波外力により被害形態は異なる。大きな津波に対して建築物の対策は限界がある。
しかし、浸水5m程度なら、耐震的に造られた木造建築物で原形を保っている例は多く見られた。
大きな構造物等の下流では残る可能性が高い。一方、衝突物に対する対策は困難。
人命の確保を考えると、まずは避難対策。次に津波外力を抑える手立て、そして(ある程度までの津波外力であれば)建築物が破壊されないような耐対津波設計が必要。
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休憩をはさんで次に、伝統的木造住宅の地震時挙動と題して講義。E-ディフェンス・その他で行われた実験の話を聞かせていただきました。
この辺は、緑の列島ネットワークがお手伝いをしている「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会」で行っている実験です。(河合先生も、この委員会のメンバーのお一人)
伝統的木造住宅の震動台実験(2008年)、軸組のみの静的加力実験(2009年)、「垂れ壁+柱」の震動実験、石場建ての柱脚滑りについて、伝統的木造住宅の震動台実験(2011年)、これらの実験に関して結果概要など解説をしていただきました。
こちらの内容は割愛させていただきますが、緑の列島ネットワークのHP内にある委員会のHPにも振動台実験の動画を見ることができますので、興味のある方はどうぞ。

今現在では、本格的な伝統構法の家を建てようと思うと、とても難しい構造計算をする必要があって時間もお金もかかるのですが、この委員会による新しい設計法ができるのももうすぐのようです。
日本の気候風土に合っていて、環境にも優しい伝統的な造り方の木造住宅が、簡単に建てられるようになることを期待しています。
伝統的か現代的かは別として、東日本大震災が起きたこと、それによってまたいつどこで大きな地震が起きてもおかしくない状況の今、私たち(設計者・施工者)は気を引き締めて勉強・仕事していかなければなりません。
今回見せていただいた地震による被害の写真を見て、受講生の皆様そう思われたのではないでしょうか。

緑の列島木の家スクール富山事務局 草野鉄男


2011年12月13日

緑の列島 木の家スクール富山2011 第3回 省エネルギー住宅の設計法

前回は、外部研修(実験見学)に行ってきましたが、今回はまたいつもの会場で第3回の講義を開催しました。今回は、住環境に関する講義です。
環境問題や資源枯渇などの観点で省エネというキーワードは以前から言われていましたが、3・11東日本大震災以降、より省エネ・節電への意識が高まりました。
設計者・施工者も、今まで以上にそういう問題に貢献できる家づくりを考えていかなければなりません。
今回の講師は、住まいと環境社代表であり、岐阜県立森林文化アカデミー非常勤講師や自立循環型住宅研究会の主宰をしておられる野池政宏先生です。
野池先生には、省エネルギー住宅の設計法と題して講義をしていただきました。
お話しいただいた内容のテーマは、3つ。
1、温熱指標の意味を理解し、プレゼンできるようになる。
2、パッシブデザインの基礎を学ぶ。
3、省エネルギー住宅の評価を整理する。
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まずは、1つめの温熱指標。
温熱を表す値などはたくさんあるのだが、最低限知っておきたい数値について解説をしていただきました。
R値(熱貫流抵抗)・U値(熱貫流率)・Q値(熱損失係数)など。
数式だけ見るとややこしそうでも、単位を読み取ればその数値が表している意味が理解しやすくなります。
これらの数値を計算すると・・・
W数が分かれば、あとは時間を設定すれば、熱源別の消費量や金額が出せる!
U値はもちろん、Q値やμ値を計算してお金にからめたプレゼンができる!
Q値を求めれば、室温の差(快適性)もプレゼンできる!
こういう風にプレゼンできると、新築時やリフォーム時のお施主様との打合わせにとても役立つ。
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2つめは、パッシブデザイン。
パッシブデザインとは、建物の周りにある自然エネルギーを最大限に活用・調節できるようにして高質な室内環境を得ながら、省エネルギーに寄与できるよう建物を設計すること。
その対象となる設計要素としては、昼光利用・自然風利用・日射遮蔽・断熱・日射熱利用(パッシブソーラー)がある。これらをいかに定量的に徳かが重要であり、大きな課題。
昼光利用することにより、照明エネルギー・暖房エネルギーを減らす。ポイントは、建物の配置計画と多面採光を考慮する。
自然風利用で、冷房エネルギーの削減。卓越風向・ウインドウキャッチャー・立体通風を考えることがポイント。
日射遮蔽することによっても、冷房エネルギーを減らす。窓の内外で遮蔽するやり方があるが、重要なのは窓の外側で遮蔽すること。
断熱により、暖房エネルギーの削減。Q値=2を目標に断熱を考える。
パッシブソーラーで、暖房エネルギーをさらに削減し、そして快適性も向上する。ポイントは、集熱・蓄熱・断熱。問題は、その費用対効果をいかに伝えるか?
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最後の3つめは、省エネルギー住宅の評価を整理。
省エネルギー・節電を目指す住宅として、3つの柱がある。ひとつは、建物のあり方としてパッシブデザインを行う。
そして、自然エネルギー利用設備(太陽光発電など)を導入する。また、高効率の設備・家電製品を導入する。
一般的によく言われているのは太陽光発電なのだが、この3つのうちまず何からやれば良いのか?を考えてみる必要がある。
これを、長いスパン(60年)で計算してみると・・・
太陽光発電は、電気代の面でとてもお得そうに聞こえるが、やはり設備投資費が非常に高価であること。30年で取り換えるも考えておかなければいけない。
それに対して、パッシブデザインは一度行うと建物の性能がずっとそのままなので、60年(30年でも)で見ると、太陽光利用よりもパッシブデザインを行う方がお得。こういう考えに基づけば、パッシブデザインは最強!ということが分かった。
コストの面でお得という他にも、太陽光利用を取り入れても快適性にはつながらないが、パッシブデザインでは快適性も得られるので、設備投資するならまずはパッシブデザインを!
それに加えて太陽光利用もするというのは、もちろん省エネに貢献できる。
あとは、住まい方としてこう高率な設備・家電を導入したり、家族で無駄な電気を使わない工夫すること。

この辺の温熱環境に関することは、温度や湿度など身近に感じながら、データや資料が少なかったためなかなか分かりにくい分野ではありましたが、このように数値化されてきたので、これを使って快適かつ省エネな家づくりを考えるときがきたようです。
最後に、数値を考えるポイントして・・・、Q値を下げるとμ値も下げないとダメ!このバランスが重要である、とのこと。
受講生の皆さん、いつもより一生懸命にメモ書きしておられたのが印象的でした。

緑の列島木の家スクール富山事務局 草野鉄男


2011年12月6日

緑の列島 木の家スクール富山2011 外部研修 構造要素実験見学

緑の列島木の家スクール富山、今回は外部研修に行ってきました。今年度の外部研修は、構造要素実験の見学です。
場所は、金沢工業大学の地域防災環境科学研究所。担当していただいた講師は、同大学の教授 後藤正美先生です。
緑の列島ネットワークがお手伝いさせていただいている「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会」の実験検証部会では、今年度は主に構造要素実験をいくつかの大学で分担して行っています。
後藤先生は、この実験検証部会の主査をされていて、金沢工業大学では構造要素として壁・接合部などの実験を担当。
緑の列島木の家スクール富山では、今年度の外部研修として、その実験を見学させていただいたのです。
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金沢工業大学の地域防災環境科学研究所に行きましたら、写真にありますようにこれから行われる試験体が所狭しとたくさん並べられていました。
今回見学させていただいた試験体は、板壁です。地域的には、岐阜県飛騨地方に多い板倉の木造建物(民家や倉庫)で使われている壁です。通し貫に、板を張る形式の壁。
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まず最初に見学させていただいたのは、通し貫のみの試験体1。
写真では、柱と柱の間にある水平方向の材が通し貫。それに直行して垂直方向の材が打ち付けてありますが、壁材の下地としての胴縁です。
通し貫だけですので大した耐力ではありませんが、写真を見てお分かりのように、大きな変形にも粘り強く耐えています。
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試験体1の実験終了後、試験体の解体及び損傷観察をさせていただきました。
実験の途中からも見えていましたが、通し貫が粘ることによって貫に割れが入っていますし、解体してみると柱のホゾが折れています。
通し貫が割れたのは、貫と柱の仕口の加工方法に関係しているようです。(貫部分に欠き込みを施してあったのでそこから、割裂をおこす。)
この試験体の柱は人工乾燥材でしたので、その割れ方などを見ると人工乾燥さえれた材ならではの脆い壊れ方をしていました。

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このあと研修室に移動して、後藤先生の講義。
こういう実験から、どのように壁倍率が決まるのか、そして耐力壁の考え方(足元を固定する場合と、伝統的な足場建ての場合の違い)などについての講義をしていただきました。
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また実験室に戻り、今度は試験体2を見学。
先ほどの試験体1に、板を縦張りしてある壁です。板が張られた分、どれだけ強くなるのか・・・。
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その結果としては、試験体1に比べて2の方が2倍ほどの強さとなりました。
写真は、396mm変形した状態です。

伝統的な民家の壁の実験を見れる機会は少ないですので、見学された受講生の皆さん(設計者・施工者・大工さん)は、どのように感じられたでしょか。
伝統的検討委員会のおかげもあり、こういう実験が行われるようになったことは、とても大きな意味があると思います。
これからは、環境や日本の山のことも考えた長寿命な家づくりをしていかなければなりません。
そういう意味も含めて、貴重な実験見学をさせていただきました。
後藤先生ならびに実験を担当してくれた学生の皆さん、ありがとうございました。

緑の列島木の家スクール富山事務局 草野鉄男