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2008年1月24日

2008/01/23 名古屋近山スクール運営委員会 

1/23 名工大にて、近山運営委員会を開きました。今年度、受講生からいただいたアンケートを元に、来年の講師やカリキュラムの内容を協議しました。来年のテーマの候補は、「再生」「建築基準法の改正」など。もちろん、山の勉強として、山の見学も考えております。3月末頃には、講師へのアポイントを取りカリキュラムを決定したいと思います。人気の高い山辺豊彦氏の木構造講義は、必ず入れる予定です。今年も継続してますので、ご期待ください。(近山スクール名古屋運営委委員 大江忍)


2007年11月28日

第6回講義 泉幸甫氏 「建築は風景をつくれるか」

 今回は、建築家の泉幸甫先生に「建築は風景をつくれるか」いう演題で講演をいただきました。

 冒頭、泉先生は「私は近くの山の木は部分的にしか使っていないので…」とおっしゃり、恐縮されながら講演は始まりました。事務所を立ち上げた当時のお話から始まり、木や左官、職人の手仕事にこだわった家つくりを試行錯誤しながら取り組んでこられた様子を、作品の写真を示されながらご紹介いただきました。

 作品の中では、「近くの山の木」と「遠くの山の木」をデザインとの兼ね合いの中で選択しつつ、設計されている点についても説明されました。左官塗りは様々な塗り方や素材を自分でも試してみながらイメージの仕上げに近づける努力をいろいろとされているお話を伺いました。窓枠周りの収め方や柱の面をどう取るか、手摺の造り方などディテールについてもご紹介いただき、参考になる部分が多くありました。空間を永く使い続けていく上で、建物が永く生き続けていく上でデザインやプロポーションが大切な要素であると改めて感じました。

 また、「アパートメント鶉」という集合住宅をご紹介いただきました。これは「村を作る」というテーマで東京都内に集合住宅を設計されているのですが、長屋のような入り口から入って、中にビオトープがあって、ギャラリーがあって、通り抜けができるそんなちょっとした村のような集合住宅を設計されています。ここで「風景をつくる」という今回の演題につながり、なるほどと感じました。やはり建物を単体ではなく、建物と建物が重なり合ってどんな風景を作っていけるのだろうかという視点は設計をする者として参考になりました。また、こういった大きなプロジェクトを進める上で工務店や設計士だけではなく、会計士や融資先までを組み込んでプロジェクトチームを作り上げて事を進める方法でした。その際、「収支計算は建築家が握ります」との言葉が印象的でした。

 また、地域工務店を応援するプロジェクトにも取り組んでおられ、50を越える地域工務店が集まった組織をアドバイザーとして関わってこられたお話も伺いました。地域の工務店が地元の木のよさを生かしながらデザイン的に優れたものをどのように造って行くかは、地域の風景をつくっていくうえでも大切です。

 これからの「山の木を使った家づくり」は、単に木を使うということではなく、生活の器として、風景として美しいかということも非常に重要ではないかと思われますので、今回の講義はそういった面で大変参考になったかと思います。 (文責 宇野)


2007年9月25日

9/24 一般公開講座 近山スクール名古屋5周年記念講演会 報告

日時:2007/9/24 13:30〜18:00
場所: 名古屋工業大学 講堂にて

近山スクール名古屋5周年記念講演会

基調講演 「森づくり・木の文化づくり・エコロジーの知見に基づいて」
 講師: 宮脇 昭氏(国際生態学センター研究所 所長)

先生が実行されてきた現場での実践のお話を写真を見ながら話され、すばらしい実績の数に感動して拝聴することができました。1mの幅があれば、本物の森ができること、現場が大切であること、今までの植木屋さんの植え方による森林づくりは、管理費がかかるなど。熱帯雨林の「再生」から万里の長城の山での植林まで、あくまでも現場で、見て触れて実践してこられた先生のお言葉は、机上の論理展開ではなく、迫力あるリアルな話で、地球環境を守るための身近な手段としても是非実行していきたいものです。

②事例紹介1 
 「徳島の杉で家をつくる」 
 和田善行氏(TSウッドハウス協同組合代表 )

徳島で160年前から植林された人工林の森林を守る和田さんは、杉の材料の価値を山側からの基礎となる経費から算出され、消費者との直接取引による流通を確立して独自の展開をされてきました。国産材の価格が「暴落」するなかで、生き残りをかけて頑張っていられる姿をお話されました。

③事例紹介2
 「豊田市の森づくりの取組み」 
原田裕保氏(豊田市森林課課長)

日本ではじめての森づくり条例をもとに、今後の豊田の森づくりを行政の責任者として語っていただきました。

④パネルディスカッション
「これからの森のあり方を多面的に考える」
パネラー:宮脇昭氏、和田善行氏、原田裕保氏
コーディネーター:赤堀楠雄氏(林材ライター)

赤堀氏のすばらしいコーディネートにより、三人の立場の違う先生方の話をまとめていただきました。宮脇先生からは、原田森林課長に豊田市の森でも宮脇方式の実践を促されました。間伐したあとを放置して、照葉樹林にするには時間がかかり過ぎるので、広葉樹の植林をすべきとの宮脇先生の意見が強く印象に残りました。この温暖化が実際に進行する現在、私たちなりに行動を起こす時期となってきているでしょう。フィールドへ出るべきと感じました。

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パネルディスカッションの様子
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宮脇先生
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宮脇方式植林
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会場の様子

 


2007年8月16日

8/11 近山スクール名古屋 第4回第二講義  「規格化」と「標準化」で家をつくる  戸塚元雄氏

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梁や柱を表わす木造軸組構法で建てる際、常に取り上げられる課題は、安全性と予算です。
その二つに積極的に取り組んでおられる方達を今回の講師にお迎えしました。第一講義の六車工務店さんと、第二講義の戸塚元雄先生です。

戸塚先生は、20年以上前から六車工務店さんと組んで四国の杉で住宅をつくり続け、杉材の普及に取り組んでいます。まず、山の木をまちに受け渡すシステムづくりに取り組み、2006年に国産材プロデュースのための「木庸社」を設立し、セミナーなどの普及活動を各地で行っています。今回の講義では、国産材利用を広めるキーワードは「規格化」と「標準化」であるというお話を、伺うことにしました。

以下戸塚先生の講義の要約(2007/4 新建ハウジングプラス1の原稿を基に)
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■林野庁の基本方針
 平成19年2月に林野庁から注目すべきデーターが発表されました。それは、 「在来木造住宅における部材別木材使用量および割合(平成17年試算値)」 で、林野庁は、国産材の在来工法住宅での利用割合を2005年の3割から、 10年後に6割まで引き上げる目標を掲げた方針です。『林野庁、木材産業の体制整備および国産材の利用拡大に向けた基本方針』と検索すれば、簡単に出てきてダウンロードできます。

■国産材利用拡大のカギ
  そのデーターの中で、特に目を引くのは、梁、桁材の国産使用割合が極端に
  少ないことです。
            国産材    外材
       柱    45%     4%
       土台   28%     50%
       梁・桁   5%    72%
  梁・桁などの横架材が国産材に変われば、利用は大幅に拡大することを示し
  ています。

■国産の杉が横架材の使われなかった理由
 ①『横架材は松』 ・・・つくり手側の材料選択の慣習がある
 ②少なくなった地松に替わり、安価な米松が入手しやすかった(過去形)
 ③杉材(強度、乾燥)への不安
  上記の3点がよく言われていますが、③については改善されつつある中で、 
 梁・桁の数値が特に落ち込んでいるのは、
 ④寸法体系の未整備・・・に理由があると思っています。

■寸法共有に向けた『れいほく規格材』
  木材にはJAS(日本農林規格)という規格がありますが、現場にはもう少
 し実用的な規格が必要です。柱の国産材利用率が高いのは、断面は3.5寸角、4
 寸角、長さは3mと、規格化が成立しているからで、“横架材にも実用的規格
 化をしよう”と、2006年4月に高知県嶺北木材共同組合は『れいほく規格材』 
と名付けて、広報活動と販売に乗り出しました。

■『れいほく規格材』のポイント
 ①現し型住宅」に向けて、部位別に断面と長さを明記した杉の規格材の販売
 ②高齢材ではなく、40〜60年生の材を使うこと
 ③材の一本ずつに価格決定プロセスが明示されること
 ④注文票が用意されていて、“消費者側の使いやすさ”に重点
 「現し型住宅」を対象としたのは、梁や桁を現す建て方が多くの住み手の支持
 を得ていることに加えて、現わして使う建て方でこそ木材の良さが評価され、
 適正な価格の回復につながると考えるからです。

■「木材規格の共有」がもたらすもの
 日本には京間、関東間の違いはあるものの、半間という建て方のモジュールが
 あります。その規格化のお陰で、多様化とフレキシビリティの恩恵を消費者が
 受けるのと同様に、『木材の規格化により設計が束縛される』といった弊害は
 ほとんどないと思います。それよりも、消費者側は乾燥した木材が安定供給さ
 れるメリットがあり、山側は木材の継続的注文で経営が安定し、今までは伐採
 後手付かずだった山に木が植えられ、将来にわたって木材供給のサイクルが循
 環することになるのです。

■おまけ
  以上が戸塚先生の講義の概要です。
 講義の後で、先生から『れいほく規格材』のパンフレットを頂きました。
 一番後ろのページに、“『れいほく規格材』を使ったプラン例”と書いた、た 
くさんのプランが載っています。2間×6間、3間×4間、3間×6間、4間×4間 と、
それぞれ2例ずつ、26〜36坪ぐらいの床面積のプランが紹介されてい ます。

 設計図を見慣れた方ならばよくわかると思うのですが、坪数にゆとりがない分
 無駄を省き、それでいて、空間の広がりと繋がりを楽しめる魅力的なプランで
 す。これらのプランを参考にしながら自分で設計をして、良い木材に建築資金
 を振り分けるのも、ひとつの選択だと思います。まず、協同組合にパンフの請
 求をしてみませんか。
     嶺北木材共同組合 TEL:0887-82-1055,
              FAX:0887-82-2716
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■反省
 今回は“国産材のプロデュース”に焦点を当てたお話ばかりでした。戸塚先生 
は、現在香川で90坪の木造の病院を建築中とのこと。設計士としてのお話を聴 
かずに終わってしまったのは勿体なかったと反省です。次の機会には設計のお 
話を伺いたいと思います。

文責 - 寺川千佳子(近山名古屋運営委員)


8/11  近山スクール名古屋 第4回第一講義  若齢木対応型構法について 六車 昭氏  六車誠二氏 六車俊介氏

att00109.jpg今回の近山スクールは、杉を構造材として生かし、若い職人を育てながら、魅力的な建物をつくり続ける六車工務店の代表六車昭氏、棟梁六車俊介氏、六車誠二建築設計事務所の六車誠二氏の3人に、『六車工務店の仕事』のこだわりのお話を伺いました。

受講生で受講できなかった方々にも是非お伝えしたい講義内容でしたので、なるべく詳細にノートをとりました。夕食会で教えて頂いたこと等も加えてあります。寺川のフィルターがかかっていることをご承知の上でご覧ください。

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〜木をみて構法を考える〜     戦後造林の杉で、伝統型軸組構法に取り組むために
①「木質構造」ではなく、「木構造 」であること                                                   当社の建物は、「木構造」です。、それも伝統型軸組構法です。伝統型は柔らかい構造ですので、金物、筋交い、合板などは相性が悪いので使いません。となると、プレカットでは刻めない継ぎ手と仕口になるわけです。木材と構法で強度は左右されますので、木目、木の反りなどを見て、使う場所、使い方を考えます。となれば、当然すべて手刻みになる訳です。

②「人工乾燥」ではなく「自然乾燥」であること                                                   香川では構造材として昔は松が使われてきましたが、松くい虫で松から杉への変換を余儀なくされました。杉は水分をたっぷり含んでいますので、乾燥を必要とします。高温乾燥は材の強度面で不安ですし、中低温乾燥では建ててから表面が割れてきます。そこで当社では、「自然乾燥」の道を探りました。乾燥を速めるために、柱の背割(せわり)のように、梁にも背割を入れます。人工乾燥しないことで木材の酸性化を防ぎ、時間と手間をかけることで表面割れを防ぐ“の省エネ”「自然乾燥」こそ、「21世紀の技術」と自負しています。

③すべての関係者の協力で作りあげる仕事                                                 建物を、材木の寿命以上長持ちするようにしなければ、山は禿山と化してしまいます。高齢木なら80年以上の年月が、若齢木でも成長に45〜60年はかかります。建物を長寿にするために、適材適所の材料を製材屋に作ってもらいます。 梁には、下端に目の込んだ白太部分を残して製材してもらいます。、芯の位置を調整して製材を頼みます。基礎の上に載るのは、赤身です。桧材も、土台は赤身というのが基本です。外壁の板に柿渋を塗りますが、後からでは塗れない板の裏側、表よりしっかり塗ります。山で木材を切り出すときから、仕事にかかわるすべての職人たちのプロとしての配慮が、家の寿命を長くします。それを理解してお施主さんが待ってくださり、長く使い続けて頂く時間のサイクルで、山に木が育つことを願っています。

問題①この ような観点からの家つくりも、戦前に植林された高齢木がほとんど姿を消し、戦後の若齢木が市場の大半を占めはじめている現在、若齢木に対応した構法を構築する必要に迫られています。高齢木との根本的な違いは、「芯目が粗い」点。 ホゾ部分が強度の生命線である伝統型軸組構法にとっては、大問題です。

問題②林業の潜在的な課題「木材の乾燥とストック」に加え、根本的な課題として「市場の求める材の基準」を見失い、それに重ねて、人件費の高騰による製材コストUPで、施業計画が立ち行かない状態になりつつあります。

それらの問題をクリアする方法のひとつとして、若齢木対応型構法の実践を始めました。

対策:仕口について                                                                       ホゾ部分の芯目が粗い→大ホゾに→梁の欠損が大きい→梁幅を上げる

結果→横架材を「丸太に一番近い形」である正方形断面(4寸、5寸、6寸)に集約し、→背割を引き通して、ストックする

対策:継ぎ手について                                                                     背割を引き通してあるため、追掛け大栓継ぎ、金輪継ぎ、などの伝統的継ぎ手は不可能なので

結果→肘木、敷桁を応用し、その部分で継ぎ手を行う→そうすることで材の長さの問題にも対処できる

適寸製材の重要性(樹齢45〜60年の標準的丸太において) 目の詰んだシラタ部分を梁の下端に製材する為に
180φ → 4寸角   240φ →5寸角   300φ → 6寸角   360φ → 8寸角 または5寸×尺

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講義にはパワーポイントに加えて動画も用意され、レッカーーを使わない建前の様子なども見られて、大変密度の濃い内容でした。六車工務店さんは若い棟梁をたくさん育てていて、昭氏を加えての平均年齢が31歳、加えない場合は26歳と伺いました。人を育てるコツは『任せること』だそうです。自社の若者だけでなく、各地で大工さん、設計士を育てることに熱心ですの、お近くで講演会などがある場合は、ぜひ聴講をお勧めいたします。             文責  寺川千佳子(近山名古屋運営委員)