2007年11月28日

第6回講義 泉幸甫氏 「建築は風景をつくれるか」

 今回は、建築家の泉幸甫先生に「建築は風景をつくれるか」いう演題で講演をいただきました。

 冒頭、泉先生は「私は近くの山の木は部分的にしか使っていないので…」とおっしゃり、恐縮されながら講演は始まりました。事務所を立ち上げた当時のお話から始まり、木や左官、職人の手仕事にこだわった家つくりを試行錯誤しながら取り組んでこられた様子を、作品の写真を示されながらご紹介いただきました。

 作品の中では、「近くの山の木」と「遠くの山の木」をデザインとの兼ね合いの中で選択しつつ、設計されている点についても説明されました。左官塗りは様々な塗り方や素材を自分でも試してみながらイメージの仕上げに近づける努力をいろいろとされているお話を伺いました。窓枠周りの収め方や柱の面をどう取るか、手摺の造り方などディテールについてもご紹介いただき、参考になる部分が多くありました。空間を永く使い続けていく上で、建物が永く生き続けていく上でデザインやプロポーションが大切な要素であると改めて感じました。

 また、「アパートメント鶉」という集合住宅をご紹介いただきました。これは「村を作る」というテーマで東京都内に集合住宅を設計されているのですが、長屋のような入り口から入って、中にビオトープがあって、ギャラリーがあって、通り抜けができるそんなちょっとした村のような集合住宅を設計されています。ここで「風景をつくる」という今回の演題につながり、なるほどと感じました。やはり建物を単体ではなく、建物と建物が重なり合ってどんな風景を作っていけるのだろうかという視点は設計をする者として参考になりました。また、こういった大きなプロジェクトを進める上で工務店や設計士だけではなく、会計士や融資先までを組み込んでプロジェクトチームを作り上げて事を進める方法でした。その際、「収支計算は建築家が握ります」との言葉が印象的でした。

 また、地域工務店を応援するプロジェクトにも取り組んでおられ、50を越える地域工務店が集まった組織をアドバイザーとして関わってこられたお話も伺いました。地域の工務店が地元の木のよさを生かしながらデザイン的に優れたものをどのように造って行くかは、地域の風景をつくっていくうえでも大切です。

 これからの「山の木を使った家づくり」は、単に木を使うということではなく、生活の器として、風景として美しいかということも非常に重要ではないかと思われますので、今回の講義はそういった面で大変参考になったかと思います。 (文責 宇野)