梁や柱を表わす木造軸組構法で建てる際、常に取り上げられる課題は、安全性と予算です。
その二つに積極的に取り組んでおられる方達を今回の講師にお迎えしました。第一講義の六車工務店さんと、第二講義の戸塚元雄先生です。
戸塚先生は、20年以上前から六車工務店さんと組んで四国の杉で住宅をつくり続け、杉材の普及に取り組んでいます。まず、山の木をまちに受け渡すシステムづくりに取り組み、2006年に国産材プロデュースのための「木庸社」を設立し、セミナーなどの普及活動を各地で行っています。今回の講義では、国産材利用を広めるキーワードは「規格化」と「標準化」であるというお話を、伺うことにしました。
以下戸塚先生の講義の要約(2007/4 新建ハウジングプラス1の原稿を基に)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
■林野庁の基本方針
平成19年2月に林野庁から注目すべきデーターが発表されました。それは、 「在来木造住宅における部材別木材使用量および割合(平成17年試算値)」 で、林野庁は、国産材の在来工法住宅での利用割合を2005年の3割から、 10年後に6割まで引き上げる目標を掲げた方針です。『林野庁、木材産業の体制整備および国産材の利用拡大に向けた基本方針』と検索すれば、簡単に出てきてダウンロードできます。
■国産材利用拡大のカギ
そのデーターの中で、特に目を引くのは、梁、桁材の国産使用割合が極端に
少ないことです。
国産材 外材
柱 45% 4%
土台 28% 50%
梁・桁 5% 72%
梁・桁などの横架材が国産材に変われば、利用は大幅に拡大することを示し
ています。
■国産の杉が横架材の使われなかった理由
①『横架材は松』 ・・・つくり手側の材料選択の慣習がある
②少なくなった地松に替わり、安価な米松が入手しやすかった(過去形)
③杉材(強度、乾燥)への不安
上記の3点がよく言われていますが、③については改善されつつある中で、
梁・桁の数値が特に落ち込んでいるのは、
④寸法体系の未整備・・・に理由があると思っています。
■寸法共有に向けた『れいほく規格材』
木材にはJAS(日本農林規格)という規格がありますが、現場にはもう少
し実用的な規格が必要です。柱の国産材利用率が高いのは、断面は3.5寸角、4
寸角、長さは3mと、規格化が成立しているからで、“横架材にも実用的規格
化をしよう”と、2006年4月に高知県嶺北木材共同組合は『れいほく規格材』
と名付けて、広報活動と販売に乗り出しました。
■『れいほく規格材』のポイント
①現し型住宅」に向けて、部位別に断面と長さを明記した杉の規格材の販売
②高齢材ではなく、40〜60年生の材を使うこと
③材の一本ずつに価格決定プロセスが明示されること
④注文票が用意されていて、“消費者側の使いやすさ”に重点
「現し型住宅」を対象としたのは、梁や桁を現す建て方が多くの住み手の支持
を得ていることに加えて、現わして使う建て方でこそ木材の良さが評価され、
適正な価格の回復につながると考えるからです。
■「木材規格の共有」がもたらすもの
日本には京間、関東間の違いはあるものの、半間という建て方のモジュールが
あります。その規格化のお陰で、多様化とフレキシビリティの恩恵を消費者が
受けるのと同様に、『木材の規格化により設計が束縛される』といった弊害は
ほとんどないと思います。それよりも、消費者側は乾燥した木材が安定供給さ
れるメリットがあり、山側は木材の継続的注文で経営が安定し、今までは伐採
後手付かずだった山に木が植えられ、将来にわたって木材供給のサイクルが循
環することになるのです。
■おまけ
以上が戸塚先生の講義の概要です。
講義の後で、先生から『れいほく規格材』のパンフレットを頂きました。
一番後ろのページに、“『れいほく規格材』を使ったプラン例”と書いた、た
くさんのプランが載っています。2間×6間、3間×4間、3間×6間、4間×4間 と、
それぞれ2例ずつ、26〜36坪ぐらいの床面積のプランが紹介されてい ます。
設計図を見慣れた方ならばよくわかると思うのですが、坪数にゆとりがない分
無駄を省き、それでいて、空間の広がりと繋がりを楽しめる魅力的なプランで
す。これらのプランを参考にしながら自分で設計をして、良い木材に建築資金
を振り分けるのも、ひとつの選択だと思います。まず、協同組合にパンフの請
求をしてみませんか。
嶺北木材共同組合 TEL:0887-82-1055,
FAX:0887-82-2716
■反省
今回は“国産材のプロデュース”に焦点を当てたお話ばかりでした。戸塚先生
は、現在香川で90坪の木造の病院を建築中とのこと。設計士としてのお話を聴
かずに終わってしまったのは勿体なかったと反省です。次の機会には設計のお
話を伺いたいと思います。
文責 - 寺川千佳子(近山名古屋運営委員)