〝設計しながら木を刻む〝
講師 綾部孝司さん 綾部工務店取締役
大学卒業後、商業施設を中心にした企画と設計の会社に就職し、充実した日々ではあったが、スクラップアンドビルドの連続に違和感を覚え、住宅設計の設計事務所に移り、さらに木造を深く知るために、家業の大工工務店を継ぐことを決意する。
仕事がデスクワークから現場に変わったことで、木が材料ではなく生き物であること、建築を頭ではなく体で感じ、失敗でできない緊張の日々が感性を鍛えてくれる。「木を活かす気持ち」で取り組むことから、形が決まり、その形を生みだす技術が育つ。伝統構法とは、木を活かす気持ちを抜きには考えられない。
目指すのは、循環に基づいた自然な暮らし。自然な営みの中に活かされていることを、住まい造りを通して伝えたい。だから使う材料は木と土と紙。雨に弱い材料だからこそ、造り手は保守のしやすさを考えて建てる。
建物を長持ちさせるためには、悪くなった部分を見つけ易いことが一番。その為には内外真壁構造が一番。そして床下に潜りやすい石場立てが最適。保守(見つける)は建て主の仕事、工務店は手直しのお手伝いだ。
住まい手は住まいながら育ち、造り手は造りながら育つ。そんな家造りが難しくなっている。必要な材料が身近で入手しにくい。ついで法律が手足を縛る。法律や制度が定める安全の基準や性能は、近視眼的ではないのか?受け継がれてきたすばらしい工法を、未来に繋げられるように、伝統構法の良さを皆さんに知っていただきたい。
(文責 運営委員 寺川千佳子)