2012年10月23日

緑の列島 木の家スクール富山2012 第1回 なぜ、いま木の建築なのか。

緑の列島木の家スクール富山、2012年度の講義がスタート。
10月20日に、第1回の講義を開催いたしました。
昨年同様、富山・石川・新潟から、そして今年は福井から通って下さる受講生も含めて、熱心な実務者の方々が申し込んでくださいました。

 

2012年度最初の講義は、東京大学名誉教授の有馬孝禮先生を講師にお招きし、「なぜ、いま木の建築なのか―木造、木材利用推進の流れの中で―」と題して講義をして頂きました。
前半は、国産材の利用を促進する法律ができていく流れに対して、山・林業の現状とこれからの目標・目指すべき方向などを中心としたお話。
上記の法律といえば「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」(2008年11月)、「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(2010年5月)がある。
そしてつい先頃「都市の低炭素化の促進に関する法律」(2012年9月)という法律も。
「都市の低炭素化とは、社会経済活動その他の活動に伴って発生する二酸化炭素の抑制並びにその吸収作用を保全し、及び強化すること」と定義されている。
低炭素社会という言葉の意図するところは、低二酸化炭素社会と高炭素貯蔵。
化石燃料から出る二酸化炭素の排出抑制が低二酸化炭素であり、森林における炭素固定、それを受け継いで木造建築などが健全な姿で維持されるなら木材資源を保存する炭素貯蔵庫になる。
ただ単に、都市の木造建築化や木材利用だけでなく、その生産の場である森林との関係から考える時期にきたと言える。
山・林業の方を見てみると、我が国の森林の年間成長量は全蓄積の3%、年間伐採量は1%なので、木材資源としての蓄積は増している。それを主に支えているのは、スギ・ヒノキなどの人工林。
1990年以降手入れされている森林、すなわち林業活動がなされている森林における成長量(蓄積の増加)である。
こうした部分(森林)が、地球温暖化防止条約「京都議定書」の我が国の温暖化ガスの削減目標の多くを担っている。
この林業活動を支えるためには、都市側がいろいろな分野で国産材をどれだけ利用し、山に資金を還元するかにかかっている。

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炭素貯蔵の面では、木質材料・木製品は製造エネルギーを換算した炭素放出量に比較して炭素貯蔵量が大きい。
したがって、その耐用年数は森林の成長期間にゆとりを持たすとともに都市の炭素貯蔵を意味する。
我が国の木材資源の蓄積量の推移を見てみると、人工造林木によって資源が増加しているものの、問題はその内訳であり、人工造林の樹齢を面積分布でみると40〜50年生が多く、若い層が極端に少ない。
循環資源であるためには、若い層が多くあって生物体として健全である。伐採更新しない限り、循環資源として機能しない。森林における木材資源としての平準化への努力が重要。
伐採更新のために都市が認識すべきことは、伐採された木材は建築物などに姿を変え、都市にストックされ、伐採地には新たな資源生産が始まるという循環である。
幸いにして、我が国には先人たちの努力によって蓄積された木材資源を有している。その蓄えられた財産を生かし、次の世代に資源を更新・持続させるべき時期に来ている。
それには「身近なところで木材を」「木材でできるところは木材を」「国産材独自の魅力」との連携を粘り強くやることである。
後半は、木材を扱うプロとして知っておかなければいけない木の性質など、主に木材の話。
木の密度に関して、早材と晩材の密度の違い、樹種による密度の違い。木の実質と空隙=木の実質率の求め方。
密度と強度の関係は、どうなのか。無欠点材の強度の場合は、密度に依存する。
ベイマツは、スギより一段階強度が強い? 木材の基準強度で、無等級材ではそうだが、JAS材の目視や機械式で等級によっては、ベイマツよりスギの方が強い。
マツやヒノキは、ヤング係数が小さいと強度も弱いが、スギはマツやヒノキに比べてヤング係数が小さい傾向にはあるが、ヤング係数が小さくても強度が大きい材料である。
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収縮率と密度の関係、干割れ率と曲げ強さ・ヤング係数の関係。割れた材は、強度が落ちているのか?
乾燥とクリープの関係、そして含水率。含水率の求め方を勘違いしている人も多い。
平衡含水率とは? 気温20℃・湿度65%の部屋なら平衡含水率は、12%になる。
木の熱伝導率を見直す。マウスによる各種材料の居住性能に関する研究の実験結果より、コンクリート・クッションフロア・合板・スギ・ヒノキ、マウスが一番休んでいたのは?
他にも、床材料の違いによって作業に影響が出る、消費電力が減る、・・・などの話をしていただきました。
最後は時間がなく、残りのスライドをサッと見て終わったのですが、まだまだ聞きたい有馬先生の講義でした。
全部書くと長くなるので、木の話の部分では、キーワードのみ書きましたが、受講生の方々は一生懸命メモを取っていらっしゃいました。
有馬先生の講義で学んだように、木(国産材)を使うことの意味を消費者の方に伝える努力が大切です。
もう一つは、せっかく使っても短寿命では意味がないので、丈夫で長持ちするつくり方をしなければいけません。
そして、そのつくり方の意味をお施主様にも理解してもらい、長く持たせることのできる家を、住まい手が長く持たせる使い方(維持・管理)をしてもらう必要があります。

 

木の家スクール富山では、残り4回の講義と外部研修(実験見学)1回を行います。
外部研修の開催日は、12月8日(土)になりました。
聞きたい講義のみの受講または外部研修のみの申込みも受付けしておりますので、ご希望の方は富山事務局まで。

 

緑の列島木の家スクール富山事務局 草野鉄男