2012年03月14日

緑の列島 木の家スクール富山2011 第5回 大工の実践/山と木の話

緑の列島木の家スクール富山2011、早くも最終回です。3月10日に第5回の講義を開催いたしました。
今回は、お二人の講師をお招きして2つの講義です。
1つ目は、こだわりの大工棟梁の実践例として滋賀県にある宮内建築の宮内寿和棟梁。
2つ目は、山と木の話と題して林材ライターの赤堀楠雄先生の講義。
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まずは、宮内棟梁から。
棟梁のこだわりとして・・・。
一般的には設計は設計者、建てるのは大工という関係が多いが、宮内棟梁の場合は設計者と大工の協働作業で造っている。
それは、建築主の要望や設計者の考えなど、どうしてこういう間取りになったのか、どうしてこの形・デザインになったのかを実際に造る大工も知らなければならないからである。
現場では、図面通りに造るのはもちろんのこと、図面以上のものを造ろうと思っているのだと。
そういう風に、設計者と大工の協働で造る家を紹介していただきました。
1軒目の建築主は、板倉の家にしたい・石場建てにしたい・金物は使いたくないという要望。
この要望から、まず石場建てにするには限界耐力計算をする必要がある。板倉の壁にして金物を使わないとなると、工法を一から考える必要がある。
ということで、考え出した工法が挟み梁工法だった。
それは、4寸角の柱を同じ大きさの4寸角の横材2本で挟み込むという工法であり、柱の断面欠損をなるべく少なくしてめりこみを活かすという仕口が特徴。
これを、数々の実験で耐力を実証して、挟み梁工法の家が完成した。
2軒目の例は、築200年の蔵を改装して住宅にした実例。
3軒目は、景色の良い郊外で建てる開放的な家。この家も挟み梁工法によって、建築主の要望を実現した家。
以上、設計者と大工の協働で造った3軒の家の紹介。
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次に、水中乾燥の話。
一般的な柱には背割りが入っている。これは強度的な面も含めてどうなのか? しかし、背割りがないと自然な割れが入ってしまう。
この割れを何とかしたいということで、いろいろ調べてみると水中乾燥すると、割れが入らないらしい。
これをすぐに試してしまうのが、こだわりの宮内棟梁。
結果としては、水に入れて1年そして井桁乾燥および製材後の天然乾燥をすると・・・、含水率は13%に。(当然ばらつきはあるが20%以下に)
こうして、本格的に水中乾燥に取り組むことに・・・。
3枚目の写真は、宮内棟梁の講義のあと休憩時間の間に、挟み梁工法の家の模型を受講生の方々が興味深く見ているところ。
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2つ目の講義は、赤堀先生による山と木の話。
山という意味では、日本の林業の現状の話から。
林業=森林マネジメントの方向性が変わってきている。林業とは人森とのかかわりであり、立木の価値を高めることが林業経営の目的であった。
しかし、丸太の価格が下がっているため、経費=マネジメント費用(作業にかかる経費)を差し引くと、立木価格=所有者収入が減っている。
木材の自給率が外材に押されて、2000年で過去最低(18.2%)となり、その後は上昇して30%近くに。価格が下がっている(利益が少ない)のに、生産量が増えているという現状になっている。
森林所有者の利益(立木代金)確保が二義的になり、マネジメント自体が目的化していく。つまり所有と経営の分離が増大。
そうなると、立木・丸太の高付加価値化への意欲が薄れ、森林所有者による林業経営からマネジメント林業へ移行する。林業収入は立木代金からマネジメントの対価となる。
マネジメント林業に従事する林業経営者はビジネスとして成立するが、土地を提供する森林所有者の利益が確保される保証はない。
経営スタイルとしては、労働多投型から粗放化(手のかからない施業)していく。
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しかし、「木を見る」「木を見て使う」ことを大事にしないと粗放的な森林経営ばかりになる。
立木代金を得るために木の価値を上げたいと思っても、どんな木でもいいから量だけ・利用の機会を増やすだけなら、付加価値は不要。
所有者への還元は二の次であり、利用者(伐採業者・製材・住宅メーカー)が利益を得る。
結果、所有者が精魂込めるのではなくできるだけ手をかけない森づくりが行われるようになる。ますます、所有と経営の分離が進むことに。
そうならないように、「木を見る」ことで価値を引き出せる利用を大事にして所有者が森づくりの意欲を持てるようにするべき。
「木の個性」「木の良さ」を活かした利用を創出し、林業が継続・受け継がれるように。より多くの良質材が確保されるような施業や素材生産(造林)に力を入れるべき。
こういう意味で、木の価値を引き上げる利用例の紹介をしていただきました。
また、地域材の生き残り・差別化として、木材コーディネーター・木材アドバイザーなど木材関連の資格・講座が人気になっている。
求められていることは、木材の適切な利用をコーディネートできるスキル・川上〜川下までの幅広い知識・木材に関する知識、これら一段上のスキルで差別化を図ること。
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次に木の話としては、どんな材料が適切なのか、乾燥材とはどういういものか、JAS認定材などについて。
特に乾燥に関しては人工乾燥による内部割れの問題や劣化の問題などについて話をしていただきました。
まとめとして、ユーザーの住まいのニーズは、低所得化を背景にコスト意識がシビアになるが、質的満足への要求は強い。
とことん良いものを求めたいユーザーに対して、「お待たせしました」と言い切れる自信と完成度が必要。
という赤堀先生の山と木の話でした。

今回の講義では・・・
設計者と大工とが協働で造りあげるこだわりの家に学ぶべきところがたくさんありました。
山と木では、設計者・施工者は山と木のことをもっとよく知り、林業関係者は建築のことを知らなければなりません。
これこそが、このスクールの最大の目的であります。
川上から川下まで一緒にお互いのことを勉強することにより、山が元気にそして住まい手が安心して暮らせる家が増えるように。

今年度の緑の列島木の家スクール富山の受講生の内訳は、設計者50%・施工者40%・大工10%。
林業側としては、材木屋さん1人だけ。(この材木屋さんは、熱心に全部受講してくれました。)
このように、林業関係者が少ないのです。宮内棟梁は、大工さんももっとこのスクールに来ないと・・・。
今年度受講された方は、スクールで学んだことを実務で活かしていただきたいと思います。
また、まわりの実務者の方々にも、特に大工さんや林業関係者にも声をかけていただければ幸いです。
木の家スクール富山、木の家スクール名古屋も、このスクールを続けていきますので来年度もよろしくお願いします。

緑の列島木の家スクール富山事務局 草野鉄男