2012年02月28日

緑の列島 木の家スクール富山2011 第4回 木構造レベルアップ講座Ⅱ

2月25日、緑の列島木の家スクール富山の第4回講義を開催いたしました。
今回の講義は、木構造レベルアップ講座Ⅱとして、木造軸組構法構造計画の基本編と伝統的構法の木造住宅に関する講義。講師は、工学院大学建築学部建築学科教授河合直人先生です。
基本編では、木造建築物の耐震設計法と題してお話していただきました。
耐震設計で重要なのは、壁量・壁の配置・接合部・水平構面・基礎地盤の5点。その中でも、特に壁量が最重要である。
過去の地震の被害と壁量の関係より、床面積当たりの壁量が多いと被害が少なくなる。
壊れやすい建物としては、間口方向に壁を設けにく狭小間口の建物や道路に面して開放的な店舗併用住宅など、いずれも壁量が少ないから。
狭小間口の家で、壁量が少ないのだがわずかな筋かいが入っていたことによって、被害が軽微だった家もある。そういう意味でも、まずは耐力壁の量が重要。
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その次に、その耐力壁が有効に働くためには・・・。
①壁の配置にも要注意、②接合部(筋かい端部・柱の上下)はきちんと、③床や屋根(水平構面)もしっかりと
①壁配置のバランスが悪いと→働かない壁が生まれる→全体として弱くなり→変形の大きい方から崩壊する。
②接合部の重要性は、耐力壁両端の柱上下を接合→耐力壁の回転防止→耐力壁本来の力が発揮される。
③水平構面は、地震や風の力を耐力壁に流す働き、部分的な変形の増大を抑える働きがあり、特に耐力壁の配置が悪い場合に重要となる。
その他、基礎も同様に重要。
耐力壁による柱の引き抜き→柱を土台に緊結する→土台を基礎に緊結→基礎は剛強であること。
地盤の重要性とは。
地盤が軟らかい→揺れが大きくなる→もともと弱い住宅が倒壊する。
以上、木造建築物の耐震設計の要点。
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そして、東日本大震災における木造建築物の被害について、いろいろな被害例を見せて下さいました。
震度7あった地域でも割と揺れによる被害は、阪神大震災に比べると少ない。
木造建築物は、長い周期(1〜2秒)の揺れに弱いが、この地震は短い周期であったため被害が少ない。(阪神大震災は長い周期)
ただし、一部の地域で被害が大きいところもあった。それは、地盤が悪いために周期が長くなっている地域である。
東日本大震災における木造建築の被害のまとめ。
まずは、地震動による震動被害では。
被害は広範囲にわたり、被害形態も建物の種類・地域性・地震動の特性により極めて多様。
被害原因を大別すると、上部構造の振動被害と地盤変状に伴う被害に分けられる。
住宅の倒壊や大破などの甚大な被害は、北関東から東北の広い地域に点在。河川の流域など軟弱な地盤で、耐震要素の少ない建物が倒壊・大破に至っている。
地盤がらみの被害は、傾斜地、特に宅地造成地における地滑りや擁壁の破壊に伴う住宅等の倒壊や大破と砂質地盤の液状化に伴う上部構造の全体傾斜や沈下が目立つ。
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次に、津波による被害は。
津波外力により被害形態は異なる。大きな津波に対して建築物の対策は限界がある。
しかし、浸水5m程度なら、耐震的に造られた木造建築物で原形を保っている例は多く見られた。
大きな構造物等の下流では残る可能性が高い。一方、衝突物に対する対策は困難。
人命の確保を考えると、まずは避難対策。次に津波外力を抑える手立て、そして(ある程度までの津波外力であれば)建築物が破壊されないような耐対津波設計が必要。
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休憩をはさんで次に、伝統的木造住宅の地震時挙動と題して講義。E-ディフェンス・その他で行われた実験の話を聞かせていただきました。
この辺は、緑の列島ネットワークがお手伝いをしている「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会」で行っている実験です。(河合先生も、この委員会のメンバーのお一人)
伝統的木造住宅の震動台実験(2008年)、軸組のみの静的加力実験(2009年)、「垂れ壁+柱」の震動実験、石場建ての柱脚滑りについて、伝統的木造住宅の震動台実験(2011年)、これらの実験に関して結果概要など解説をしていただきました。
こちらの内容は割愛させていただきますが、緑の列島ネットワークのHP内にある委員会のHPにも振動台実験の動画を見ることができますので、興味のある方はどうぞ。

今現在では、本格的な伝統構法の家を建てようと思うと、とても難しい構造計算をする必要があって時間もお金もかかるのですが、この委員会による新しい設計法ができるのももうすぐのようです。
日本の気候風土に合っていて、環境にも優しい伝統的な造り方の木造住宅が、簡単に建てられるようになることを期待しています。
伝統的か現代的かは別として、東日本大震災が起きたこと、それによってまたいつどこで大きな地震が起きてもおかしくない状況の今、私たち(設計者・施工者)は気を引き締めて勉強・仕事していかなければなりません。
今回見せていただいた地震による被害の写真を見て、受講生の皆様そう思われたのではないでしょうか。

緑の列島木の家スクール富山事務局 草野鉄男