2017年12月30日

木の家スクール名古屋2017 第5回:11月4日(土)②

第5回 錯覚の日本建築伝統論 ―「素木建築」の実体を探る―

講師:窪寺 茂 氏(建築装飾技術史研究所・所長)

 

窪寺さんは、文化財の彩色に関する日本唯一の専門家で今年の2月まで台湾で2年間教鞭を執られていました。

我々が目にする文化財建造物の多くは一見、塗装等を施していない素木(しらき)に見えるが、実はかなり高い確率で色付けされているとの言葉には驚きました。窪寺さんは、就職された後、30歳頃より彩色の研究を始め、「塗装」は、漆塗と彩色の2つだけではないことに気がつき、ある時代を境に途絶えてしまった建築技術(塗装)を技術面から研究されたそうです。この分野は、調査が非常に難しく、専門家でも間違うことが多いとか。窪寺さんは文献調査だけでなく、実際に塗料を木材に塗り、その垂れ落ち具合や太陽光による劣化状況を調べるなど実験的な研究にも精力的に取り組まれています。講演は、豊富なデータに基づく内容で、とても貴重な機会となりました。

講演は先ず、木地色付け技術の体系についての話から始まりました。例えば漆塗は色漆と透漆に分類され、色漆は木地の表面が見えない塗装で黒漆塗、赤漆塗が約9割を占めるとか。それ以外は青漆塗、黄漆塗などがあるが非常に少なく、紫檀塗に至っては稀少だそうです。一方、透漆は塗装を通して木目が見える手法で、木目の持っている美しさを際立たせる技術。透漆は大工道具の進化にも大きく関係していて、縦挽き鋸の登場によって木目を綺麗に見せる塗装技術が必要となったため出現したとの話は、去年度の渡邉先生の講演にも通じるものがあり、とてもしっくりきました。

その後、木地色付けの技術解説や寺社建築の歴史的展開(概要)、素木化した木地色付け建築事例などを講演頂き、綺麗な色付けを行っても20年で素木になってしまう具体例が写真で示されました。

講演の後、会場より「久米蔵色を実際に作ってみたが難しい」や、「文化財修理をする上で塗装を復原するか否かの判断の基準は」など具体的な質問があり、皆の関心が高い講演であったことがわかる回となりました。

(文:秀丸)