2015年10月26日

木の家スクール名古屋2015 第3回:7月11日(土) 第1部






これからのひかり

講師:岡安泉氏(岡安泉照明設計事務所 代表)

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岡安氏は照明デザイナーとして、数多くの建築家や企業とプロジェクトを共にされ、またミラノサローネやその他のイベントのインスタレーションも手掛けられています。本講義では、美しい氏の作品の映像とともに、講義を聞かせて頂きました。

講義はLEDの特徴について詳しく教えて頂く事から始まりました。
LEDは2010年以降、商業空間などから利用から始まり、現在は家庭用照明の商品も数多くなりました。
以下にその特徴を箇条書きにします。

・長寿命 高効率 高輝度 発光面積が小さい
・色温度の選択肢が多い
・演色性能の選択肢が多い
・紫外線・赤外線をほとんど含まない(色褪せしない・生鮮食品への影響が無い)
・直流・低電圧(変換ロスが発生しない)
・応答速度が速い
・on/offが寿命に大きく影響しない(フィラメントを使用していない)
・発熱量がとても小さい(回路部分で少々熱が発生してしまう)

講義では各々の項目について詳しく説明頂きました。その中で特に力を入れてお話しされたのが色温度・演色性能の項目です。

原始人間は太陽の光の下で生きてきました。太陽の光は日の出・日の入りでは2000K程度、日中は7000K程度にまでなります。また、クルーゾフ効果にある通り、人間が心地良いと感じる光空間は照度(ルクス)と色温度(ケルビン)のバランスに左右されます。そしてまた人は、気候や民族の歴史的背景からも、心地よいと感じる光の空間の好みが変わります。これまでの光源は色温度や演色性能の幅が狭く、光源の種類に対して限られた選択になっていました。これに対しLEDは双方を希望のものにセレクトして製造でき、また市販品についても選択肢が広く、中には一つの光源から何色もの光を出すことが可能な商品も発売されています。更にLEDは、これまで人工照明が苦手としてきた赤色の再現も可能となりました。

講義では説明後、これまでに手掛けられた作品の映像を見せて頂きました。

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そして次に岡安氏は興味深い氏の仮設を話されました。

『エジソンが電球を発明する以前、太陽以外の灯りとなる光源は火であった。人々は基本的には太陽光を建物に取り込むことで日中の照明を得た。そして火は基本的にポータブルな灯りであり、明るくしたい対象の近くにあった。その後、白熱電球・蛍光灯の時代になると、光源の設置場所が徐々に人の手の届かない天井へと移動した。移動した理由は、明るくする為でもあるが、感電ややけどを防ぐ為でもあった。こうして、器具の設置場所がどんどんと身体から離れてしまい、安全にはなったが、人と光の関係が離れてしまった。
LEDの光は現在離れてしまっている人と光の関係を再構築する可能性を持っている。熱を持たず、感電する事が無い為、再び身体の近くに光源を持ってくることが可能だからだ。また明るさは、光源との距離の二乗に反比例することからも、光を身体の近くにすることは省エネにつながる。』と。

最後は2011年にアメリカで作成されたドキュメンタリームービー「The City Dark」を紹介し、光害について話されました。この映画は、監督本人がアメリカ北東部の田舎からニューヨークに移住した事から始まりました。

現在は、住宅の窓から、街路灯、自動販売機、サイン看板など、多くの光が必要以上に空に向かって放たれています。ニューヨークの夜の光が町中に溢れる中「我々には暗闇は必要なくなったのか?」という疑問を持った監督は、調査を始めました。ハワイで小惑星の調査をすると、街の光によって観測に弊害が出ることがわかったり、フロリダでのウミガメの孵化を追跡すると、昔は海に反射する星や月明かりを目指して歩を進めたウミガメが、今は街の灯りを目指して進んでしまっていたり、シカゴの路上では、鳥が、光により高さの感覚がわからなくなり高層ビルにぶつかってしまったり。人間にも、夜間の照明とがん発生率との因果関係が挙げられています。他にも夜の光が及ぼすさまざまな影響が懸念されている事がありますが、未だ解明されていません。

本講義を通じて、様々な角度からLEDの可能性を教えて頂きました。そして、光と人間の関係性について考えさせられました。今後、照明計画を行うときには、今日の講義を思い出し、一つ一つ、丁寧に光を選んでいきたいと思いました。

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(文:田中寛子)