耐震⇒温熱⇒仕上・設備 住宅リフォームの実践
講師:米谷良章(米谷良章設計工房 代表)
大学を卒業して就職した設計事務所が『民家型構法』に取り組む現代計画研究所。地域材と地域の大工でつくる公営住宅の設計をはじめ、団地の改修計画などの仕事が建築のスタートラインでした。
住民参加型の団地改修を通して、『設計』というよりはむしろコミュニティーづくりに取り組んできたという米谷さん。住民の声を改修に活かすことに力を注ぎ、また、住みながら経済的に、かつ効果的な温熱改修をする工法を摸索するなど、団地改修の質と効率と経済性を追求する経験が、今の設計スタンス『米谷流』の基礎を培いました。
住宅が余りはじめている昨今。“高度経済成長期に大量に建てられてきた住宅と、どのように向き合っていくのか”といったことが、これからの大きなテーマの一つだと米谷さんは言います。細い柱で頼り無い構造、不十分な断熱性能といった、やや粗悪な建物をどのようにリフォームして活かしていくのか。そこで発揮できる設計事務所の職能とはどんなところにあるのかを、リフォームの事例を見ながらお話し頂きました。
リフォームで大切なことは、まずその建物を詳細に調査し、多面的に状況を把握すること。とかく住まい手はキッチンのリニューアルや壁紙の模様替えなどの、表面的なことにしか目が向いておらず、肝心な「耐震性能」や「温熱性能」、又は「機能性」が損なわれていないか、といった視点を欠いていることがほとんどです。そこで、住まい手と家を“全体的に把握”して、今、どのようなリフォームをするべきなのかを提案していきます。
『リフォームの計画』とは、
- 改修後の暮らし方を把握する
- 改修の優先順位を決める
- 改修後の性能目標を共有する
- 複数の性能向上部位を重ねる
- 温熱(省エネ)改修はパッシブデザインから始める
ということ。
あと何年住むつもりでいるのか。劣っている耐震性をどの程度補強して高めていくのか。また、劣化の程度はどうか。冬暖かく夏涼しく、そしてどの程度省エネを実現したいのか。そもそも、今のライフスタイルに間取りが合っているのかどうかなど、様々な角度から検証し、予算とのバランスを計りながら、より効果的なリフォームの計画を提案し、理解を得て進めていきます。
また、リフォーム後の家が計画通りの性能を発揮しているのかを確認するために、その後一年のデータ取りをしていくことも大変重要だと、米谷さんは言います。
経済の勢いに乗って造り放たれてきた大量の住宅も、適正に手を加えることによって、再び“世に活きるもの”になる。
リフォームの意義を再認識することができた講義でした。
(文:丹羽明人)