2015年06月03日

木の家スクール名古屋2015 第1回:5/16(土) 第2部

京町家を残すために  —不動産業からの実践—

講師:西村 孝平 氏(株式会社八清 代表取締役社長)

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いま、空家の増加が全国的な社会問題となっているが、京都でも『町家』の空家化が加速的に進んでいる。かつて有った約48000軒の町家が、この十数年で2割消失し、さらに5000軒が空家となって、災害時の安全性や防犯、衛生面などの問題は増々深刻化している。

そんな中、京都で不動産業を営む株式会社八清の西村孝平氏は、それらの“負の財産”を、ずば抜けた“先見の明”と“アイデア力”で“京の魅力”にあふれるビンテージ商品に変えた。経済を興し、町の景観を保ち、観光に繋げ、地区界隈に息を吹き込むことで、商いと社会貢献の両立を実践している。

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西村氏が古家物件に特化することになったきっかけは、平成11年に手掛けた古屋の改装販売。瞬く間に完売した経験から、「これは商売になる!」と直感した。

まだ『リノベーション』という言葉が無い当時に、ただの中古物件ではなく新築でもない全改装物件を『リストック住宅』と名付けて商標登録し、その後の『町並み100選』の奨励賞受賞を弾みに、町家の再生は本格的に動き出した。

西村氏が大切にする価値観は“経年美”。『履き古されたジーンズ』や、電波時計には敵わない精度だけど、手作り感に溢れる『機械仕掛けの腕時計』など。人の手が触れ、時間を経て深まる味わい。二つと無いものの魅力を評価するということ。

家の平均寿命が諸外国に比べて極端に短い日本。築30年で『家』の評価がゼロになってしまう不動産界にあって、“経年美”という価値感を見いだしたことはまさに画期的だ。

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『1950年以前の既存不適格物件』、『道路狭小の車侵入不可物件』、『基準法上再建築不可物件』など、既成概念では不動産的価値ゼロ。しかし、そんな物件を町家の風情を活かした貸家『京貸家』として改装したり、旅館『京宿屋』として再生し、旅館物件として、あるいは収益型のセカンドハウスとして売り出した。その他、シェアハウス『京町家だんらん』や、外国人の長期滞在型宿泊施設『京町家レジデンスイン』、月貸し貸家『京町家マンスリー』などの商品を生み出すなど、それぞれの立地や建物の規模を活かす多様な再生メニューは、どれも魅力的なものばかり。

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その物件こそが持つ“潜在的な良さ”を引き出すことで『空町家』の流通を興す大きなムーブメントは行政をも動かし、『空家条例』や『空家相談員』などをつくるに至った。また、金融界も古屋の再生物件を対象にした融資商品をつくるなど、これまでのスクラップ&ビルドとは違う、“ストック・再生”の流れを確かなものにしつつある。

 

(文:丹羽明人)