2011年07月16日

木の家スクール名古屋2011 第三回 樋口佳樹氏 宇野勇治氏 山田貴宏氏

地球温暖化やエネルギー問題の影響により、各国で省エネ対策が進められているなか、日本の家づくりにも大きな波が押し寄せて来ています。

今後、住宅建設にはどのような省エネ性能が求められるようになっていくのか。また、それに対応するための新たな環境技術とはどのようなものなのか。

一方、日本で伝統的に培われて来た、エコで快適な家づくりの手法とその性能はどのようなものか。そして、現代の住宅にも有効に活かせるものがあるのかどうか。

さらには、『木の家』の総体的な価値をどのように評価し、客観的に明確にしていけるのか。まさに『環境の時代』に相応しい『木の家』の優位性を、どう明確に示し推進していくのか。

今回の三人の講師による講義は、建築や設備の性能に加え、暮らし方まで含めたエコロジカルな『これからの木の家』を考える上での重要な視点を示すものとなりました。

 

最初の講師は、樋口暮らし環境設計の樋口佳樹さん。

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 ヨーロッパの先進各国、及び、EU合同による省エネ推進の取り組みについて。そして、日本の省エネ推進の動向。さらに、このところの国内での先進的な取り組みなどの紹介をして頂きました。

これまでのように、建物の断熱気密性能のグレードアップに加え、高効率の設備器機の普及。あるいは、太陽光発電や太陽熱利用などでエネルギーを取り出すことによって“ゼロカーボンゼロエネルギー”の実現が目指されつつあります。さらには、建設時と廃棄時分のCO2の回収を目指す“LCCM”(ラウフ サイクル カーボン マイナス)の実現に向けた取り組みは、国内の建て売り住宅でも始まっているそうです。

しかし一方、既存改修の多い欧米諸国とは違って、9割近くが新築という日本の現状は、木材自給率が24%程度と大変低いことに加え、その平均寿命がたったの30年程度という短かさです。LCCMの評価では『地産地消』が大変有効なことからも、森林国日本においては、“近くの山の木で家をつくる”といった視点に重きを置くことは最も重要なことだとの指摘もありました。

 

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 二人目の講師は、愛知産業大学准教授であり、当スクールの運営委員長でもある宇野勇治さんです。

“木と土を用いた家の温熱環境デザイン”と題し、伝統型と現代型の家の居住環境実測や、シュミレーションからわかってきたそれぞれの家の特徴を解説して頂きました。

土壁の蓄熱効果と断熱の組み合わせは、特に冬の屋内環境を安定させて快適性を向上させることができます。また、庇の遮光効果はLow-Eガラスよりも遥かに大きいこと。その他、通風や冬のダイレクトゲイン。あるいは、植栽などの建築以外の要素による効果が大変大きいことなどを説明して頂きました。

“人がどのように暑さ寒さを感じ取っているのか”、“心地よさとは何か”も含めた、目指すべき“これからの木の家の温熱環境デザイン”のお話でした。

 

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 三人目の講師はビオフォルム環境デザイン室の山田貴宏さんです。

山田さんには2009年にもご登壇頂き、パーマカルチャーの思想に基づく住環境づくりのお話を伺いました。

今回は“木の家の環境設計のためのツールと手法”と題し、木の家の評価手法とその必要性についてのお話しを頂きました。

日本の気候風土に合った『木の家』は、パッケージ型の大量消費住宅に比べて様々な点で明らかに優位性があります。

しかしそこで、“木の家は良い”という曖昧な表現ではなく、『評価ツール』を使って様々な環境要素を総合的、かつ、客観的に評価することで、木の家の良さを明確に説明し伝えられるようにして行くことが、今後、『木の家』を推進して行く上でとても重要です。

構造、環境、コスト、間取り、意匠性、地域性、社会性など、家を総合的価値として評価できるようにした上で、“どんな性能の家にするのか”ということを住まい手に提示して確認できるようにすること。それは、単に太陽電池などの『環境設備』の装備や『温熱性能』の数値の追求だけに留まるのではなく、本当に必要で欲しい性能と質の住環境を創るためにはとても有効な手法だということを認識させられました。

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講義の後にはグループ討議(ワールドカフェ)の時間を設けて、“これからの木の家の環境と暮らし”という大テーマのもと、以下の六つの小テーマに分かれて意見交換をいたしました。

テーマごとの主な意見を以下に記載します。

 

1.『木の家の性能評価』

・地域性を考慮した性能評価が必要

・価値観が均質になってしまっている中、どのような基準で性能評価するかが課題

・一般の方にわかり易い評価が必要

・木組みの家は高価なイメージが有るが、性能を明らかにできれば、むしろ安いことが解るはず

・木の家の性能をデータ取りして出すことは難しいのではないか

・今までは国のためのものだったが、住まい手のための性能評価を提案するべき

 

2.『土壁の断熱』

・地域によって、断熱するべきかどうかが分かれる

・土壁の良さをなくしてしまうので、内断熱は考えにくい

・蔵のように厚い壁にすれば熱性能は上がるのではないか

・断熱材により湿気が外に抜けにくくならないか、あるいは内部結露の心配はないか

・室内に対する調湿効果を考える場合の、外側に対しての納まりの検討が必要

 

3.『法規制と木の家』

・法22条地域でできる『木の家』の意匠性と機能性が課題

・法22条地域では『木の家』と呼べるような木造三階建ての家は建てられない

・土壁であれば大壁に板貼りで防火構造として認められるが、中に断熱材を入れても認められるのか? (*告示により、不燃系の断熱材であれば認められる)

 

4.『自給自足・自立型住宅』

・災害時などに一週間くらい持ちこたえられる程度にはしたい

・たとえば里山の循環の系の中で成り立つことであり、都市部の戸別単位で考えるのはむつかしい

・ガスや電気がとまっても暮らせる家づくり

・食料と同じく、木材の調達にも関連する視点も重要

・様々な法規制によって、循環型の生活がしにくくなっている面も有る

・電気に変換するのではなく、地熱冷暖房や光ダクトなどの様に、そのまま活かす方が良いのではないか

・地域によってパッシブが成り立つかどうかが分かれる

・打ち水などのように、小さい範囲の微気候レベルの発想も大事

・エネファーム(家庭用燃料電池コージェネレーションシステム)は地産地消?

・巨大システムの部品の家ではなく、小規模システムの中での家づくりを目指す

 

5.『これからの暮らし』

・かつての日本の住まいは人間力を育み活かすことで成り立っていた

・住まい手を過保護にしないことが大切

・現代の家はマニュアル的過ぎるのでは

・コーポラティブハウスで上手く行っている事例は少ないが、藤野のエコ長屋ではどうか

・地域住民と上手く馴染むことができるかどうかが大切

・昔の長屋暮らしは人のふれあいが暖かそうで魅力的な印象が有るが、“知っているけど知らないふり”的な心遣いが有ってこそ成り立っていた(まさに人間力)

・藤野のエコ長屋では風呂が共同になっている(人間力を育む仕掛け)

・人の感性や身体的な適応力を活かすことができる住環境を考えていきたい

・お金や物ではなく、人と人の繋がりを大切にすることから考える

・“これからの暮らし”は多様であっていい

・地域コミュニティーが安心な暮らしを支えてくれる大きな要素

・地域住民のコミュニケーションがお互いの心づかいを育む

・最近、シェアハウスで老人と若者の恊住という住まい方がうまれてきた

 

6.『地域とのつながり・環境と暮らし』

*つくり手として、地域との結び付きをどこまで意識して取組んでいるか

*“地域の材”や“地域の職人”による家づくりについてどう考えるか

・“地域”をどこまでの規模とするのかが様々

・『身土不二』ということばがあるように、一里〜二里くらいのエリヤで衣食住がまかなえる環境がよい

・ネットでショッピングができる現代では、地域という概念は今や様々。“地域”にこだわる意味も薄れて来ているのではないか

・食に関しての地産地消意識は高まっているが、木材のそれはまだまだ広まっていない。アピールが足りないのではないか

・山の環境問題を考える上では近山の考え方は大切だが、木材を単に材と捉えれば、物によっては外材の選択も有りうる     

       以上

運営委員 丹羽