2013年02月01日

木の家スクール 名古屋2012 第3回:7/14(土)

 「建築と政治」 建築士の社会的存在意義について

 

一部 講師: 江原 幸壱 氏 

 

以下、一部、二部ともに講師のお二人がお話しされた内容を抜粋しました。

 

ひと昔前なら、大事故が起これば名のある建築家が何らかの発言をしていたものだが、

今回の原発事故では、誰も、何も発言しないことに、今非常に疑問を持っている。

私自身は、何かが自分の思いと反対の方向に変わろうとする際には、何らかの行動をとるように心がけているからだ。

 

たとえば、伝統構法の調査をし、木造建築の良さを理解していた筈の坂本功先生が、阪神大震災のあと、建物をガチガチにする方向に意見を変えてしまった。この事態に対して、1995年に「木造住宅を考える会」を設立し、伝統建築のあるべき姿に!と活動を開始した。

2000年には性能規制が厳しくなるのを知り、性能表示評価員登録をした。しかし、これは数値化できるものしか評価しない規制で、廃棄物や環境に対しては何の評価もしないことに落胆した。

2004年は目黒公男先生に都市震災軽減工学を学び、耐震補強の大切さを訴え始めた。

2007年に建築基準法が改正(?)される際にはインターネット新聞ジャンジャンに反対意見を掲載し続けたが、社会的に影響力を持たず、その後ジャンジャンは休刊となった。

2008年には瑕疵担保法が施行されたが、保険に入らない工務店があったり、建物が強度不足と判っても建物が壊れないと保険が下りないなどの保険制度の問題点を指摘している。

2009年に長期優良(200年)住宅促進法が施行され、政府は100億円以上の補助金をつぎ込んでいる。本来長寿命の伝統構法の建物がその対象から外れているのはおかしい。

村上周三氏率いる改正省エネ法も、建築費が上がるだけで、実質省エネにはならないと、建築ジャーナルなどで問題点を指摘し続けている。

 IMG_2256

 

このように、ほとんど成果が得られない活動を続けてきて、日本は社会的意思決定をどのようにしているのかが見えてきた。日本では、審議会の中で物事が決まっていくのだ。

建築行政の決定に関しては、審議官以上に住宅局長の発言力が強いことが見えてきた。

まずは審議会制度の見直しを訴えよう。見直しなくしては、日本を変える事ができない!

 

そして、建築基本法を制定して、地方分権を進め、集団規定は強化し、単体規定は緩和し、

建築主の責務を明確化し、美しい景観を守っていきたい。

 

 

「木の家と改正省エネ法」 

改正省エネ法のどこが問題なのかの解説

 

二部 講師: 古川 保 氏

                        

「この夏、熊本はゲリラ豪雨でかなりの地域が洪水の被害にあいました。雨水を川に流すから川が溢れるのです。熊本は上水をすべて地下水に頼っていますので、浸透枡にして地下に戻してやることが、理にかなっている雨水の処理法と考えます。

 

日本は南北に細長い国です。それぞれの地域には、それぞれの気候があり、問題があります。

特に省エネに関しては、それぞれの地域に応じて規制をすべきだと考えます。

 

今までも、旧省エネ法、新省エネ基準、次世代省エネ基準と基準の変遷がありました。どれも義務ではありません。銀行から有利に融資を受ける際の条件でした。

 

ところが今回の改正省エネ基準は、2020年には完全義務化されることが決まっています。

外皮性能(Q値)を上げて熱の損失を少なくし、設備性能を良くし、断熱基準を満たさない

建物は創エネ基準(太陽光発電など)を満たすことで、使用電力とトレードオフする規制です。

 IMG_2270

 

たとえば北海道では年間に20〜30万円の暖房費を使いますが、日本の7割はⅣ地域ですので、暖房費は使用エネルギーのわずか10〜15%、つまり年間2〜3万円です。暖かい地方に改正省エネ基準を施行しても、建築費が100万円以上UPするだけで、半分になった電気代では元は取れません。

 

ならば、なぜ改正省エネ法を施行するのでしょう? この法律は経産省の管轄だからです。

この法律の目的は省エネではなく、経済の活性化、消費の促進。つまり、性能のよいエアコンに買い換えることを進める法律と深読みできます。

 

2020年にこの法律が義務化になると、南側に大きな開口で通風を促し、縁側と深い庇で日差しを遮る伝統的家づくりが、太陽光発電などを併設しないと建てられなくなるのです。

今のうち、みんなで声を上げて、改正省エネ法の義務化を何とか阻止しましょう!!!」

 

この後、ワールドカフェを実施し、今回の話題に関連したトピックについてテーブルごとに議論しました。写真はそのときの様子です。

IMG_2280

 

(文責:寺川)