古建築修理を通して思うこと
鳴海 祥博 氏(文化財建造物保存修理技術者)
皆様、大変お待たせしました。いよいよ木の家スクール名古屋2020が始まりました。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、第1回、第2回は中止となりましたが、Zoomを使ってのオンライン開催に変更し、講演者の先生方、聴講者双方とも慣れない環境下で、なんとか3回目から実施できました。今回は、鳴海祥博さん(文化財建造物保存修理技術者)、富田玲子さん、関郁代さん(象設計集団代表)を講師に迎えました。
最初は、「古建築修理を通して思うこと」とのタイトルで鳴海祥博さんの講演です。鳴海さんは、和歌山を中心に多くの文化財建造物の保存修理に関わっており全国に200名ほどしかいない文化庁が承認する文化財建造物保存修理技術者です。
近年、文化財と称される建物が増えていますが技術者は増えていないことが問題であり、文化財修理の世界も変わらないといけないが、保存と修理の理念は変わらないという言葉が印象的でした。最近では、歴史的建造物という文化財には指定されていないが、歴史的景観に寄与し・造形の規範となっており、再現することが容易ではない建物も大切とする社会となってきています。この社会変化は悪くないのですが、保存、保護の概念がわからなくなってきている。例えば、「保護と保存と保全と維持と活用の違いは何か?」など、鳴海さんは言葉を大切にお仕事されていることが紹介されました。一般的な改修工事との大きな違いは、歴史を残し次世代に伝えるという意識の目標があることだが、修理の一面は「破壊」であると理解する必要があるとの説明には、気づかされることが多くありました。また、建物の各部材が「本物」であるからこそ価値があり、経年劣化も破損ではなく歴史を経た風格であるとの発言には歴史的建造物に対する熱い思いが見えました。普段まわりにある、ガラス、タイル、陶器、ペンキ、絨毯、カーテンなどごく一般的な大量生産品にも希少なものがあり、価値を見つけて欲しいとの言葉には考えさせられるものがありました。講演の後半は、近年関わってこられた歴史的建造物の修理実例が紹介されました。
Zoomのチャット機能を使った質疑では、実例写真として紹介頂いた建物の構造に関する質問や、部材を交換する際の基準などを知りたいとの声が寄せられました。鳴海さんの基本的な考えでは、歴史を守ろうと思ったら部材をすべて新材に取り替えるという選択肢はなく、可能な限り部材を直して使いたいことや、壁や塗装も剥がさずに残せるなど、修理も進化しているので、若い技術者は挑戦と思考を続けて欲しいという要望で講演は終了しました。
(文:清水)