2019年09月24日

木の家スクール名古屋2019 第3回:9月7日(土)②

歴史的資源を活用した観光まちづくり

金野 幸雄 氏(元・一般社団法人ノオト代表理事)

休憩を挟んで第2部では、金野幸雄さんより、「今日は自分の手法を全国に普及するためやってきた。」との言葉から講演が始まりました。金野さんの専門分野は国土計画で、県職員や副市長、大学教員など様々な職種を経験されています。現在は、全国の古い民家をどのようにして保全・活用するかに関わっており、歴史的な建造物を生かし、行政以外の資金によってビジネスとする事例やコツを中心に講演頂きました。

古民家のもつ風合いを残し、その建物が一番輝いていた時代に戻すことが古民家再生の取扱方法である。決してピカピカの状態とすることではなく、現在の生活にマッチするよう水廻りなど必要な改修を加えるが、文化財の改修手法を踏襲するとの話は、多くの聴衆の共感を得ていました。そうすることによって、たとえ田舎であってもクリエイティブな若者がやってきて地方創生に繋がるそうです。その具体的な事例として丹波篠山市の、集落丸山、篠山城下町ホテルを紹介頂きました。発想の原点は、フランスやイタリアの片田舎に行くとあるオーベルジュをイメージした地産地消モデルです。

集落丸山のポイントは、景観保護条例との関わり合いでした。景観保護条例が制定された当時は、開発から街並みを守ることに重きが置かれていましたが、現在は街並みを守るため空き家を活用することが重要だと、この地域で気づいたそうです。そして、集落の空き家をビフォーアフターではなく、アフタービフォーして宿泊施設とレストランとしました。現在は、集落でビジネスとなるよう運営を任せ、もう10年が経過したそうです。篠山城下町ホテルNIPPONIAでは、歴史的な街中で歴史施設、宿泊棟、カフェ・工房などを分散型開発した事例が紹介されました。これらは文化/観光/まちづくりが幸せな1つの融合を生み、地域でお困りの「負の遺産」が輝き出す可能性を十分に感じさせてくれる内容でした。

後半は、ご専門の国土計画の話題を中心に、各種法律が話題の中心となりました。建築基準法で古民家は「既存不適格建築物」と呼ばれる、重要文化財などは法の適用除外であるが、活用することで積極的な保存の方向へ向かうべきだと持論を紹介されました。平成30年に施行された旅館業法改正でも、最低客室数や客室の構造設備が撤廃されたため、古民家でも旅館にしやすくなったこと、平成31年に施工された文化財保護法改正では文化財の確実な継承に向けた保存と活用が要点であり、PPP(官民連携手法)によって、民間の予算を活用することが大切だと紹介されました。

最後に、歴史的資源を活用した観光まちづくりのため、今日の聴衆より「まちづくりビークル」が出てくると嬉しいとの期待が込められたメッセージによって講演が締めくくられました。会場よりの質問として、ビジネスとして継続的に事業を行うポイントが聞かれ、生きがいモデルとすれば後継者がいなくなり、一代限りとなってしまう。一方、地域の向かう方向を見定め、ビジネスとして運用可能な組織をつくることにより持続可能性が高まるとの回答は納得でした。

(文:清水秀丸)