2008年07月10日

2008/6/28近山スクール名古屋 2008 第二回 フィールドワーク

第2回 近山スクール 『左官の仕事現場の見学』   講師:松木憲司 氏

第二回目の近山スクールは、三重県菰野町で施工が進められている木造建物の建築現場が会場です。木組みの骨組みに竹小舞荒壁をつけ、漆喰などの左官壁で仕上げる伝統型構法の現場で左官の話をお聴きしました。
第二回 フィールドワーク
講師の松木憲司さんは45歳の左官職人です。33歳で全国左官技能競技大会で優勝したほどの腕の持ち主です。また、この建物の設計者である山田達也さんと、棟梁の増田拓史さんにもお出でいただきました。

はじめに、お話を伺う前に現場内を見学しました。
まず気がついたことは、合成樹脂系の匂いがいっさいしないということ。全体が木と土の匂いで包まれており、また、広い縁側が庭に向かって開け、大変心地よい空間です。
現場はいま大工工事がほぼ終わったところで、これから左官の仕上げが始まろうという状況です。壁は荒壁の上に毛伏せをして中塗りがされているところと、一部の大壁部分は木摺板に尺トンボを伏せ込んで下塗りをした状態です。
左官の松木さん「木の家には新建材は似合いませんね。ですからプラスターボードはできるだけ使いたくありません。」と言われる松木さんは、目に見える表面の仕上げだけでなく、その下地も土に還るものでつくりたいとの考えから、ラスボードは使わずに、杉の木摺板を大工さんに打ち付けてもらうようにしているのだそうです。

現場内を一通り見た後、これまで松木さんが手掛けられた左官仕事の数々をスクリーンに映し出しながら紹介していただきました。

顔が映りそうなほど磨き込まれた『大津磨き』の外壁や、なまこ壁洒落た幾何学パターンの『なまこ壁』。
石とオリーブ石鹸を使って磨くことで水回りにも使えるモロッコの左官磨きの『洗面化粧台』。
ぽってりとふくよかな丸みのある形が美しい『竃』。
感覚的な判断が優先する職人仕事を、松木さんは“何故こうするのか”と言った理屈も交えて、わかりやすく説明していただけるところに、新しい職人像を感じつつ、左官の魅力にどんどん引き込まれていきます。
どれを見ても、伝統技術に裏打ちされた本物の魅力と質感がスクリーンからにじみ出るように伝わってきます。けして古くささを感じさせず、むしろとてもモダンにすら見えます。永い永い時間をかけて培われて来た職人仕事は、人の手による温もりの有る魅力と飽きのこない美しさに満ちていることに改めて感心いたしました。
磨きの洗面化粧台いまや、日本の家づくりは『工期短縮』や『コストダウン』を優先するが為に、新建材によって表層だけを繕った薄っぺらなものになりつつあります。またそのことが、シックハウスなどの健康や環境の問題も多く引き起こし、本来、安全で快適な住環境をつくるはずが、全く逆になってしまっています。
今回、改めて左官の魅力に触れ、日本の職人の素晴らしいものづくりの文化を再認識いたしました。手間を惜しむばかりに、これらを排除しようとしていることが、いかに残念なことかとつくづく感じさせられます。

竃松木さんは、『左官技術を磨くこと』、『いい材料を探し求めること』、『伝統工法を時代にあったようにアレンジすること』、そして『後継者を育成すること』が自分の役割だと言われます。
なかなかマニュアル化されにくい職人技術は、徒弟制度のなかで伝承されてきました。しかし、それもいまの時代にはなじまず、今後が心配される中、松木さんのような新しい感覚の親方が、若い職人達を牽引して行ってくれることはとても頼もしいことですし、また、我々設計者などにとっても大変心強い家づくりのパートナーだと感じました。

最後に、子供達を対象に開いたワークショップの写真を見せていただきました。
木の廃材でつくった下地に土を塗ってつくる象の滑り台や、色鮮やかに光る泥団子づくりなど。「子供達にもっと土に触れてほしい!」という松木さんの純粋な思いから、幼稚園や小中学校などで活動されています。

子供達にはあまり難しいことを話したりはせず、土のグニュ、グチャといった感覚を体感したり、ものづくりの楽しさを味わってもらうことで、安全で心地よいものを嗅ぎ分ける感性を育んでほしい。
「将来、木と土の家づくりに繋がればいい」と言われた、松木さんの最後の言葉がとても印象的でした。 
     運営委員   丹羽 明人