2017年09月21日

木の家スクール名古屋2017 第3回:7月29日(土)①

第3回 木造住宅の耐震性能の見える化(第1部)

講師 中川貴文 氏(国土技術政策総合研究所 主任研究官)

 

中川さんの講義は、熊本地震における調査・分析にも触れながら、自身がプログラミングを手掛ける木造住宅倒壊解析ソフトウェア「wallstat」の紹介と、実際に「wallstat」に触れてみる演習講義の2部構成で行われました。

まず、「wallstat」とは、どのようなソフトウェアなのでしょうか?

このソフトウェアの最大の特徴は、『壁量計算』や『許容応力度計算』といった従来の木造住宅の耐震計算にはできない、建物が倒壊するまでの耐震性能を検証することができるということです。中川さんの研究テーマでもある、非連続体解析手法「個別要素法」を基本理論としているそうです。

さらに、木造住宅がパソコン上で3次元にモデル化され、地震時に倒壊するまでをアニメーションで見る事ができます。これが視覚的に非常にわかりやすく、いくつかの解析事例のアニメーションを紹介頂きましたが、まるで画面上で振動台実験を見ているようで、損傷から倒壊までの挙動がリアルに再現されていました。伝統構法、CLTの中層建物、懸造り、五重塔など、詳細にデータを入力することで様々な条件での解析が可能です。

開発に際して、振動台実験の結果と「wallstat」による解析の比較検証も行っており、倒壊までの様子が見事に再現された映像には、会場からも「おぉ」とざわめきがおこりました。

また、損傷の度合いが部材毎に色分けされるので、建築のプロでなくても地震の影響が一目で分かるようになっています。例えば・・・地震動を与えて直ぐに赤色になる部材があれば、そこの補強を最優先に考えれば良いという検証が出来るわけです。このように「wallstat」は「耐震性能の見える化」を実現しました。

現在では、工務店のプレゼンテーションへの活用や、木造住宅用のCADや他の構造解析ソフトとの連携などの商用利用も進んでいるといいます。中川さんは、こうした商用利用の展開の先に、住宅が大量生産で作られている現状において、プレカットと「wallstat」とのデータ連携が進む事で木造住宅の構造品質の向上に期待しています。

さて、「wallstat」の普及状況はというと、2010年に無料公開して、現在では約1万3000ダウンロード。熊本地震以降で、ダウンロード数は倍増したようで、これからの木造住宅の耐震性能を担うであろう「wallstat」への関心の高まりを感じました。

それでは、熊本地震の状況の調査・分析において、「wallstat」による「耐震性能の見える化」はどのように役立ったのでしょうか。前震と本震と呼ばれる2度の地震による被害が最も大きかった益城町で観測された地震動を「wallstat」に入力することで、倒壊の要因を検証することが可能だといいます。

実際に倒壊した建物をモデル化し、完全に倒壊するまでの挙動をシュミレーションすると、各建物の倒壊の要因が見えてきます。「wallstat」では、壁の増設や接合部の補強など、耐震補強のシュミレーションも手軽に出来るので、倒壊の要因が何であったかを適正に判断する事が出来ます。

また、熊本地震のような連続した地震についてもシュミレーションが出来るため、前震での損傷が本震での倒壊に結びついた建物があることもわかりました。

中川さんは、新耐震基準以降の建物で倒壊の明暗を分けた要因のひとつとして“余力”をあげられ、熊本地震のような想定外の地震においては、建築基準法では重要視されていない雑壁などの“余力”の効果が大きく働いたと考えています。

(文:森藤)

 

「wallstat」による検証が、今後の基準にどうのような影響を与えていくのか、今後の展開を追跡したいと思えるとても興味深い内容でした。