フォーラム参加者に記入していただいたアンケートに寄せられた主立った質問や意見について、ここでお答えします。質問や意見は、委員長あて、部会主査あて、事務局あてと、対象ごとに寄せられていましたので、それぞれ、あてられた本人からの回答となっています。なお、類似する質問や意見については、まとめさせていただきました。
01 工学知は、経験知の部分知に過ぎません。工学以前からあった伝統構法を、部分知で制約をする事だけは避けて頂きたいです。
永年にわたる大工棟梁の技法や知恵を科学的に解明し、伝統構法の良さを生かしていきます。
02 大工職人の減少、加工機械の減少など、伝統構法が生き残るには、時間がありません。出来るだけ早く、あと5年程度の制度化を!
短期的、長期的に課題を分けて取り組みます。先ず短期的な課題として、現行の建築基準法のもとで伝統構法の確認申請・建築確認ができるように取り組んでいます(今年度中を目処に)。長期的(3年以内)には、伝統構法の設計法をしっかり構築して実務者が使えるように取り組んでいきます。
03 完全な結果が出る迄時間がかるでしょうから、途中の不完全な成果であっても、実務に一刻も早く使える様にして欲しいです。
現行の建築基準法のもとで、限界耐力計算による伝統構法の建築申請・確認ができるように取り組んでいます(今年度中を目処に)。この限界耐力計算による方法は、さらに検討を加えて、より使いやすいようにしたいと考えています。
04 2007年の法改正以前の、限界耐力計算を現場の審査機関で見ることができる状態に早急に戻して頂きたい。いつ頃実現可能でしょうか?
建築確認や適判における審査でのチェック項目の見直しを行い、また技術的なマニュアルなどを今年度中に整備します。また、全国的に確認申請が受理されるように国交省にも働きかけています。
05 3年間でできることは限られていると思うので、継続して検討していただきたい。
伝統構法に係わる課題は多くありますが、先ずは構造設計を、その後、長期優良の伝統構法版などにも取り組んでいきます。
06 設計する者にも審査する側にも、どちらもわかりやすい方法になって欲しい。
伝統構法に適した構造安全性のチェック項目の見直しやマニュアル等の整備を行い、実務者や審査機関 への普及が図られるように国交省とも相談します。
07 新しい設計法が運用されるにあたり、確認申請、中間検査等で無用な細かな指導が生まれないよう、地方の役所職員、検査員への勉強会をしていただきたいです。
実務者への講習のみならず、特定行政庁や民間審査機関にも講習等を実施する予定です。
08 学生向けの発信も望みます。
現在、実務者等への発信を行っていますが、学生にも伝統構法の良さを知ってもらうことを心懸けていきます。また、若い研究者にも関心を持って取り組んでもらえるようにしたいと考えています。
09 伝統構法らしい耐震改修・増築ができるようになってほしいです。健全な伝統的な構法の既存建築物に在来構法の考え方での改修が加えられることを止めたい!
全くその通りだと思います。壁の耐力に依存し、接合部を金具補強する在来構法の考え方ではなく、伝統構法が有する大きな変形性能を生かす考え方により、伝統構法の良さを生かす耐震改修や増築が可能な設計法を目指しています。
10 現行建基法の枠組を超えた体系整備を望んでいます。
現行の建築基準法では、伝統構法は明確に位置づけされていないので、現行の建築基準法、特に在来構法の仕様規定などに囚われることのないように、設計法を構築していきます。
11 実際に立法化されていくプロセスにおいて、委員会と行政側の動きを見えるようにしてほしい。
今回の検討委員会には、国土交通省住宅局木造住宅振興室のみならず、住宅局住宅生産課、住宅局建築指導課、国土技術政策総合研究所から委員として参加していただいており、検討委員会の成果を生かして法整備を図りたいと考えています。そのプロセスの公開については、国土交通省とも相談したいと思います。
12 住宅瑕疵担保保障との整合性についても考えていただければと思います。
住宅瑕疵担保保障については、今回の委員会の課題ではありませんので、今後の課題と致します。
13 伝統構法向けの長期優良住宅の基準を検討していただきたいです。
長期優良住宅では、伝統構法が唯一、長寿命の実績をもつ構法だと思っています。また、伝統構法に関連する実務者、業界は大きな期待を持っていたのですが、現行の基準は必ずしもそうではないので、今後の課題として取り組む必要があると考えています。
14 設計法の検討内容、設計法確立までの進捗過程を、できるだけ知りたいです。
検討委員会では、フォーラムやシンポジウムを年に数回、開催します。また、ホームページにおいても検討内容や進捗状況をお知らせ致します。
15 石の上をすべることも想定すると、石が大きくなりがち。意匠としてもおさまることも検討していただきたいです。
柱脚の滑りに関しては、現在、中規模振動台実験で柱と礎石との摩擦係数、滑りの発生、滑り量など検証中です。またE-ディフェンス振動台実験でも、実大試験体を用いて検証します。滑り量が大きいと礎石の大きさのみならず、その他にも障害が生じますので、滑り量を制御できる設計法が望ましいと言えます。特に滑り量の制御は、今後の課題として取り組みます。
01 簡易設計法等はおおむね大工も判断出来るようなものとしていただきたいです。
簡易設計法の詳細については今年の成果を踏まえて検討する予定ですが、できるだけ使いやすい内容にしたいと考えています。
02 石場建ての簡単なプロトタイプを作って欲しい。
今年の課題として柱脚の滑りや移動が解明され、石場建ての設計法に組み込むが可能となれば、石場建ての設計事例を考えています。
03 柱脚の滑り、浮き上がりを考慮できる設計法に期待していますが、限界耐力計算法の適用限界を超えているのではないかとも思えます。どう折り合いをつけるのでしょうか。
柱脚の滑りや浮き上がりについては、限界耐力計算で直接検討することはできませんので、許容する場合は別途検討方法または設計条件を提示したいと考えています。
04 分かり易い設計法だけでなく、様々な平面プランや外観デザインにも対応できる幅広い計算手法も作り上げてほしいです。
今年度は標準的な平面、立面について検討しますが、来年度は対象を拡大して設計事例を検討することを考えています。
05 神社仏閣から数奇屋の茶室にいたるまで、さまざまな構造計画や部材寸法に応じた技術の再評価を期待します。
伝統構法建物は多種多様ですが、今後、設計対象については十分検討したいと思います。
06 住宅レベルでは調査しないことが多いですが、限界耐力計算では地盤(工学的基盤の傾斜)についても求められます。どうお考えるでしょうか?
木造住宅で詳細な地盤調査を行なうことはほとんどありませんので、そのような前提条件で表層地盤での増幅をどう考えればいいかについて検討したい思います。
07 海洋性、横波・直下型、縦波など、地震波によって全く挙動が変わってくると思いますが、どのように整理されるのでしょうか?
基本的には、告示に示された加速度応答スペクトルを持つ地震動を検討対象に考えています。それ以外の地震動については、設計者の判断によると考えます。
08 施工精度も大事な要素だと思います。大工の腕の良し悪しの影響をどう評価するのでしょうか。
大工技量の確保は重要ですが、構造性能は確保されているとの前提条件で設計しますので、施工精度は別途考えるべきものと思います。なお、仕口接合部等の要素実験では、施工精度を加味した実験も検討しています。
09 地域性・風土性はどのようにもりこむのでしょうか。
伝統構法は、地域の風土に対応して発展してきた歴史があります。昨年度までの検討委員会でも地域性について検討を行っています。また、伝統構法の地域性に関連した多くの研究も行われています。これらを参考にして、今後の検討課題とします。
10 鉄筋コンクリートの寿命に疑問です。石場建て本来の石のすえ方である「地盤あらわし」も可能にしていただきたいです。
柱脚の滑りや移動の課題では、多くの問題があり、フラットな礎石を先ず最初に採り上げます。自然石のすえ方などは、構法・歴史部会とも連携し、現地調査や文献調査を行いますが、設計法の対象にするかは今後の検討課題です。
11 屋根瓦もずり落ちる事で地震力を吸収・分散している耐震要素としてはとらえられないでしょうか?
瓦が移動(落下)することで、どのような効果があるかは大変難しい問題ですが、設計に取り入れるためには定量的な評価をする必要がありますし、落下する場合は、安全性の問題もありますので、簡単には扱えないと思います。
12 吹抜等も含めて検証して欲しいと思います。
吹き抜けについては、床構面や屋根構面の変形も合わせて検討する必要があると考えています。次年度以降の要素実験等で検討致します。
13 京都市内や大津市内に現存する伝統構法3階建てについても、耐震改修ができるようにしてほしい。
伝統構法の設計法は耐震診断・耐震改修にも3階建てにも、基本的には使用可能ですが、設計事例として3階建てにまで対象を広げるかは今後の検討課題です。
14 プレカット・中温乾燥でも木の特性を生かした設計法はできないでしょうか?
木材の乾燥方法については、材料部会の検討課題として取り組みます。プレカットについては、現時点では、設計対象には考えていません。
01 実験棟の建方、組立を公開して頂きたいです。
見学スペースや作業上の安全性の問題などもありますので、記録写真等をHP上で公開したいと考えています。
02 実験の結果から分かったことも公開し、できればそれについて意見を言えるようなシステムにしてほしいです。
実験結果につきましては、実験ライブラリーを構築し、HPに公開します。また、フォーラムやシンポジウムを開催し、実験も含めての成果を公表しますので、ご参加下さい。
03 構造要素(壁、仕口、床など)について、実務者の提案も受入れての実験検証をしてほしい。提案できるルートはあるでしょうか?
構造要素(壁、仕口、床など)の基本的な仕様については、要素実験を実施します。これらの公開実験も予定しています。今後、広く一般から構法を応募することも考えておりますが,応募方法や採択の可否の基準などについて、検討する必要があります。
04 1,2階の揺れ方において、通し柱と管柱の働きの違いを明確にして欲しい
一連の実験の結果から考察することになりますが、通し柱と管柱の挙動について着目した独自の実験は、現段階では計画しておりません。
05 床剛性評価の指針を示していただけるとありがたいです。
床構面の要素実験は計画しています。その結果と評価につきましては、設計法部会との検討が必要になります。 京町家型のモデル体を実験してほしいです。
特定の仕様の実験は今後の課題として検討します。特に京町家については、文部科学省「大都市大震災軽減化特別プロジェクト」の一環として実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)を用いて、移築した古い京町家と新築した新しい京町家の2棟の実大震動台実験を平成17年10月から11月にかけて実施しています。
06 静止摩擦の検討は行わないのでしょうか?
現在、実施しています中規模振動台実験で柱脚の滑りに関する実験では、動的摩擦と併せて静的な摩擦についても実験で検証中です。
07 古建築には石場建でダボが入っているケースもあります。生産性がいいので、実験に入れていただきたいです。
今後の課題として、どの様な実験で性能を検証するか等を検討項目として考慮します。
08 前回の委員会での要素実験のデータを公開してほしい。
前委員会の成果は(財)日本住宅・木材技術センターおよび一般社団法人木を活かす建築推進協議会住木センターのHPに掲載されています。なお、前委員会の実験データ等に関しましては、本委員会としては関与できません。
01 全国各地にいる伝統構法の施工者を対象に、アンケートをとるなどし意見を吸い上げてていただきたいです。
前委員会では伝統構法を現在手がけている実務者に対してアンケートを実施し、分類整理されており、その成果は貴重なものと思っております。しかし、その中には明治期以降に近代化された構法あるいは現代の実務者によって工夫された伝統技術を用いた新工法も少なくありません。新委員会の構法・歴史部会では、まず初めに明治期(濃尾震災)以前の伝統構法を正確に把握することが必要であると考え、明治期以前に著された古典建築書や文化財遺構の修理工事報告書を調査する必要があると考えております。それらの分析が進んだ段階で、前委員会のアンケート結果を参考にしたり、必要に応じて新たなアンケートを実施したいと思います。
02 伝統構法といっても地域で異なるものだと思うのですが、全国統一的なものが可能なのでしょうか
継手・仕口などは全国共通のものが少ないないと思いますが、小屋組架構法などには地域的特色が現れると思います。文化財遺構(修理工事報告書)の分析によって地域的特性を明らかにしたいと考えております。
03 歴史的現実を調査することから始めるのは大変良いとして、最終的に「これから残すべき伝統構法とは何か」を考える事にあたっては、少なからず議論があると思います。地域性への対処なども含め、どのように絞り込んでいくお考えでしょうか?
ご指摘のとおりだと思います。歴史的事実としての伝統構法を、現在の建築構造学で正しく検証したうえで、不備があればそれを改良していく必要があると思います。それを段階的に進めて行きたいと思っており、決して伝統構法の検証のみを目的とはしておりません。
04 昔の石場建ての石のすえ方や耐力を調べていただきたいです。
礎石の据え方は、文化財修理工事にともなう礎石の据え直しにおいて、地形が調査され、報告書に記されていることがありますので、ある程度は確認できます。しかしながら、その耐力はこれまで検証されていないように思います。礎石の耐力の検証は、設計法・実験検証部会の問題になると思いますので、必要に応じて連携を取りながら、検証の用・不要も含めて検討したいと思います。
05 過去の伝統構法だけでなく、今の大工さんのいろいろした工夫部分の把握も行ってほしいと思いました。
上記のとおり、第1段階で伝統構法を正確に把握した後、第2段階として明治期(濃尾震災)以後の近代化にともなう変化や、現代の実務者の工夫等も把握して行きたいと思います。
06 柱、土台を基礎に固定する事が必ずしも正しくない事をもっと歴史的な点もふまえて実証して欲しいです。
了解いたしました。その検証が、新委員会の重要事項のひとつとなっています。
07 住宅設計の参考にするために、細ものだけで長年もっている建物(金閣、銀閣など)を徹底検証してほしい。
そういうものも含めて、可能な限り文化財遺構の構法に関する詳細な分析を行いたいと思っております。
01 地元産材の使用も伝統構法の大きな要素なので、木材の供給、流通のしくみについても検討事項に入れてください。
木材の供給、流通のしくみについても、検討課題として取り組む予定です。
02 木材の地域性と構法の地域性の検証も必要ではないでしょうか。
材料部会だけでは難しい気がしますので、構法歴史部会とも連携して可能性を検討できればと思います
03 天然乾燥推進のために、政治主導での是非ストックヤード整備の提案をしていただきたいです。
天然乾燥を普及させるキーポイントはストック総量をいかに確保するかであると思っています。数カ所集中でやるのか、全国の製材所に分散させて、データを1箇所で管理するなどの方法が考えられます。
04 天然乾燥の良さを保った状態で人工乾燥ができる方法の検討もお願いします。
乾燥法に関する調査・研究も我々の部会の検討課題に入っていますので、努力いたします。
05 木材のもつ自然由来による耐久、耐朽試験をぜひお願いします。
過去にもそのような試験を実施して、心材抽出成分が木材の耐久性に大きく寄与していることを知りました。データを重ねて、木材の天然由来の耐久性に関する仮説をより確かなものにすることは重要なことだと考えます。
06 設計法、要素実験で木口の年輪との関係も考慮していただきたいです。
年輪が接合部や部材の剛性・強度に影響を及ぼす程度については、木材工学の分野では比較的広範囲に研究が進んでいますので、伝統構法の分野でも、それらの研究結果を採り入れる事は可能であると思います。
07 古材評価に縦伝播速度(FACOP)だけでは不足では。局部弾性めりこみを評価する手法も加えては?
横方向の弾性係数の実測はこれまで殆ど実施されていませんが、測定可能な機器も幾つかあるようですので、測定することは可能です。検討に値すると思います。
08 京都・滋賀の古材ヤング率も計測して下さい。ケヤキも古材の中で取り扱って下さい。
了解しました。改築や立て替え予定の伝統木造建築物の情報が入り次第、積極的に調査する予定です。
01 情報公開は細かい事まで公開し、ネット上で広く意見が述べられるようにし、検討委員会はその結果を参考にしてほしいです。多くの人の意見を横につなげて大きな力にしていっていただきたいです。
ご意見の受付については、メールでお寄せいただければ、意見の内容を拝見して、委員会に関係する内容であれば、検討委員会で参考にさせていただきます。すでに回答集で回答されている意見、委員会に対する誹謗中傷な意見につきましては扱いません。伝統構法を将来につなげるための積極的な意見をお待ちしております。ご意見をお寄せいただく場合は、下記にお願いいたします。
dentoh@green-arch.or.jp
02 フォーラムを全国的に開催する計画はあるのでしょうか。他の地域の方にも是非開いて頂きたいと思います。
本年度につきましては、予算の都合上、6月の京都フォーラム、9月の金沢シンポジウム、3月の東京フォーラム、大阪OR京都フォーラムを予定しております。3月のフォーラムにつきましては、関東、関西方面とも同じ内容となります。次年度以降は、東京、大阪、京都のみならず地方での開催を企画いたします。
03 検討委員会のリーダーシップと事務局の連絡調整により、各部会・WG間の連携を十分にはかっていただきたいです。
幹事会において、各主査が顔あわせての、各部会間の情報交換、あるいは、実大実験のような課題に対しては、合同部会を開催しながら、連携を深めて、情報の共有や意見交換を実施しております。