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2010年6月5日 記録ビデオと発言録: 材料部会 小松幸平 主査

フォーラムの記録ビデオを公開します。ビデオは基本的にプログラム毎に分割し、記録時間が長いものはさらに複数のビデオにわけてあります。各ビデオはパソコンの小さな画面でもわかりやすいように編集を施してありますが、発言自体はノーカットで収録しています。

材料部会の方針(part 1)
小松幸平 主査

京都大学生存圏研究所におります小松といいます。最後に材料部会の実施計画について説明させて頂きたいと思います。私、これまで出た方とは異色かもしれませんが、木材を中心に研究している研究者です。ちょっと堅苦しい表現になりますけれども、まず材料部会に与えられました仕事といいますか検討項目なんですけども、これは非常に堅くと言いますか、最初、4月の時点で打診がありまして委員会に入ってくれということで、そのときにかなり決まったような内容でして、これを頑なに守る必要があるかどうかは別といたしまして、非常にこういうミッションが与えられているとやりやすいですから、それを目標にしてやっていこうというふうに考えています。

材料部会の5つの目標

一番最初が木材の乾燥法による材料特性やあるいは接合性能への影響を検討する。また、新建築物を対象に建築過程で木材の含水率とか乾燥収縮などを計測して、伝統構法に適正な含水率を明らかにしたいということです。二つ目が節とか割れ等、木材の欠点を評価するとともに軸組の構造性能や接合性能への影響を検討する。それから三番目は伝統構法に適した建築材の要求性能を明らかにして、構造性能を満足できる建築材の提供法について検討、それに四番目が古材及び丸太材の材料特性を評価するとともに設計用のデータベースを構築する。最後に、既存の伝統構法を対象に木材の腐朽・蟻害の実態を明らかにして木材の耐久性について適切な評価法を確立する。この五つだというふうに考えております。

材料品質・接合WG、古材WG、腐朽と蟻外害WG

これらは非常に密接には関係しておりますし、ある意味でまた専門性が要求される部分もありますので、この前半三つにつきましてはかなり一つのグループでやれそうであると。で、古材あるいは耐久性につきましてはかなり専門性を要求されますので、これについてはやはり得意な方をお願いしてやろうというふうなことで、まずワーキングを結果的には三つのワーキングに分けてやっていくと合理的ではないかなというふうに考えます。さきほど読み上げました1から3については材料品質と接合ワーキングという、どちらかというとこの材料部会のなかでは半分以上のウエイトを占めるかも知れません、非常に仕事量の多いワーキングであるかも知れませんが、そういうことになります。それから古材ワーキングということで、古材を専門にやると、それから最後は腐朽と蟻害ということでして、これも生物を扱うと言うことでかなり専門性が要求されます。

材料品質・接合WG:1)天然乾燥の種類と方法

これから一つひとつのワーキングについてどういうことをやるかと言うことをご説明したいと思います。まず最初に材料品質・接合ワーキングですけども、天然乾燥の種類と方法についてということを見ていきたい。これにつきましては21年度までに非常に充実したアンケート調査が行われております。私も初めて読んで非常に内容の濃い、いいアンケートだなと思っています。これをベースにして今年の活動をやりたい。

たとえばこれは一つの例を。膨大なアンケートがありまして、全部を示すことはとってもできませんけれども、これは天然乾燥法の状況について聞いたものでして、非常にわかりやすくうまく纏められております。回答例がこれくらいでして、たとえばこれで見ますと、天然乾燥法としてアンケートで答えられたものは、巻き枯らし乾燥とか葉枯らし乾燥とか、これ輪掛け乾燥、それから丸太のまま野積み、工場で荒挽き乾燥というふうに5種類ぐらいに分けられる。というようなことで、圧倒的に多かったのはやはり葉枯らし乾燥だったということですね。天然乾燥、このアンケートに最後の結論のところを見ますと、天然乾燥に拘る理由というのを自由表現で書いてくださいという項目がありまして、それを見ますと、やはり1位が色・艶・香りがよいというのが1位だったみたいです。それから2位は加工が非常にしやすい。カンナがかけやすいというか。それから3が耐久性がよい、この耐久性の久はですね久しいですけれども蟻に食われないと、食われにくいというのは腐朽の朽のほうをかきますんでね、両方の「きゅう」がはいっていると思います。

なぜ私が天然乾燥にこだわるか
〜心材誕生のドラマ(柔細胞の死に際のはたらき)

これがアンケートの結果なんですけれども、私それなりに自分でも非常に天然乾燥というのを最近拘ってまして、ちょっとだけお時間を頂いて、自分がなんで拘っているかについて説明させて頂きたいと思います。ちょっとまあ、言いたいんです。どうしても言いたいんです。

これはご覧になった方もあるかと思いますけれども木材の顕微鏡の断面図でしてこの小さい黒い穴があいているところが針葉樹の仮導管というところで、ほとんどの細胞はこの仮導管ですね。木材はご存じの通り、心材部分と辺材部分というのができてますけども、よく見ると放射方向に黒い組織があって、これが生きた細胞なんです。その他はほとんど死んでます。

この放射柔細胞というのだけが非常に寿命が長くて、責任感も強い細胞なんですね。この放射柔細胞がちょうど死ぬ頃に、放射柔細胞は特殊な命令を持ってまして、樹体を守るためにこの内部の死んだ仮導管の中に特殊な化学成分を送り込むんです。それで心材というのは赤く黒くなって、非常に腐りにくくなるんですけど、それをもうちょっと説明したい。柔細胞は生きている間デンプンをもっているんですけれども、そのデンプンを、どっかに書いていた、ああここですね、

死滅直前の柔細胞というのは一時的に非常に生理活動を高めまして、デンプンをフェノール性物質に変えるんです。いわゆるまあ化学変化をおこすんですね。これ心材化というんですけども、それでこの見てもらったらわかりますように、水がとおる辺材、ここは水がスースーとおるんですけども、放射方向に柔細胞が化学物質を吸着するように命令を出した部分は赤く、非常に科学的な物質が沈着するんです。この化学物質は天然の言ったら防腐剤みたいなものでして、虫やとか細菌とかそういったものに対する抵抗能力がすごく高く、それでこの白太がたとえ腐ってもですね、この赤い部分だけは、未来永劫とは言いませんけども木材が建っている間はなかなか腐らないというふうにできている、うまくできている、すごくドラマチックです。それでもう大好きなんです、このドラマが(会場から笑)。この柔細胞が死んで色が濃くなったところが心材なんです。ということで、色が濃いほどいいみたいなんです。ですから赤芯あり、黒芯ありですけれども、黒芯はもっといいんじゃないですかというふうに最近いろんな科学的な報告もされています。これがその論文の例ですね。黒芯の殺蟻成分とかいって、もう難しい論文もでてますし、非常にいいことがわかってきている。

ということで、ところがですね、高温乾燥するとこのせっかくのいい天然の抵抗成分がですね飛んでしまうんですよ。揮発。これを天然乾燥でやればじっくりと本当のいい成分だけは中に残って余計な水分はジワジワと外へ出て行くということで理想的だろう、ということで、あとでいっぱい言いますけれども物理的な欠点以外にこういう生物科学的な理由によっても僕は天然乾燥に拘りたいなと、そういうことです。大変長々と失礼しました(会場から笑)。

材料部会の方針(part 2)
小松幸平 主査

そういったようなことで、こういったまず1番目には天然乾燥の種類をうまくどれが一番相応しいのかということを位置づけしたいと思ってます。それからもしあとで質問がありまして、たとえば輪掛け乾燥ってどんなもんやと質問がありましたら、ここにちゃんとリンクが用意されてますのであとでお答えします。

材料品質・接合WG:2)水中貯木乾燥のメカニズム

それから水中貯木乾燥のメカニズムということで、これもすでに一部やられているものです。決して多くはありません。このアンケートの回答によりますと一番多かったのが製材桟積みですね。水中貯木というのはこのくらいなんですけども、これは僕らが学生の頃から習ってた非常におもしろい乾燥法なんです。で、さきほどもちょっとでてましたけども、これ仮導管です。仮導管の辺材部分というのは水がとおろうとする組織ですから、水がツーツーツーツー下から上に行くんですけども、この時はまだ細胞の壁孔という部分が閉まってないんです。これは運河で言うと船がとおれる状態。ところが心材化になるとさきほど柔細胞が内部に非常に貴重な物質を移動させましたから、内部をなるべく貴重な物質を閉じこめておきたいという多分DNAが働いている・・・。そうしますとここにこの膜の部分が閉じられてしまってもう中へは入っていけないような状態になってしまう。これが心材なんです。ですから水が出にくいんですよ。それをなんとか我々は人間の知恵で中の水を抜きたいと思っていろいろなことをやってて、永い知恵の中の一つとしては水中に貯木しておくといいよということを誰かが見付けたんですね。なぜかというのはまだよくわかっていません。科学的には解明されていませんけれども、一つの説としては水中の微生物とか細菌とかが、この細胞の壁孔、こういうところを食い破ってくれるんだろうなどと言われています。すでにこうやって実験をやっているフィールドも有りますんで、我々の委員会ではこれを本当にどうなんだろうかということを科学的に検証してみたいというふうに考えています。

材料品質・接合WG:3)干割れの発生とその強度

それから干割れの発生とその強度ですね。これも21年度から続いておりますけれども、21年度のプログラムでは3種類の乾燥法で試験体を用意します。すなわち生材をそのままホゾ、貫、穴加工を行ったもの。それからまず天然乾燥をおこなってから含水率を約30%に落として、そしてホゾを加工するやつ、それから人工乾燥をおこなってからやるという3つですね。これについてはこういった、これは私の研究室でやったものでちょっと違いますけれど、イメージとしてみてください。こういったホゾ差しの込み栓打ちの引っ張り強度を測ったり、あるいは、失礼、これやってないのでごめんなさい、間違えました。この試験体をただ空間に置いておいて、どれだけ割れが発生するかというのを観察しました。今度はこの割れが十分発生した材料を用いてこういったホゾ接合部を造ってですね、それの引き抜き実験をやってその干割れの存在箇所あるいは干割れの量がこの仕口耐力にどれだけ影響するか、あるいは耐力だけでなく剛性ですね、あるいは粘りといったものにどれだけ影響するかということをみていきたい。この2つの写真は我々の実験室でやった、別の予算でやった実験ですけども、大抵は込み栓が折れるんですけども、ここにもし干割れが、高温乾燥は中心部に干割れが起こりやすいんですけれど、こういうふうに干割れが有ると先にホゾが割れることもある。ですから2つ破壊モードというのはありますけれども、どっちがどういうふうに起こりやすいのかみたいなことも検証してみたいというふうに思っています。

それからまだ全然やっていません部材の強度そのもの、これも干割れの影響がどういうふうに影響するか、特に私が個人的に興味があるのは剪断です。剪断というのはまだまだわからない強度性能でして、木材の剪断は非常に奥が深い。試験法自体がまだ日本の国でもはっきりきまっていないぐらいでして、いろんなやつが試みられてるんですけどなかなかいいのがない。私はこういった土木のほうでよく使われているような剪断方法を導入してみたいと考えています。これ、上は普通のいわゆる曲げ実験ですね。我々の研究室の写真です。下は富山の試験場の写真です。

材料品質・接合WG:4)軸組架構における材料の欠点の影響

それから軸組架構における材料の欠点の影響ですね。これは去年の実験の写真ですけども、こういうところに、まあ通し柱の下に、上にたとえば壁があって、その直下に通し柱があると必ず柱が折損するかしないかで耐力が変わってくるわけです。文化庁が出してます伝統構法の設計マニュアルみたいのがありますけど、あれでも小壁の設計をどうするかというので折損のある場合とない場合とで非常に結果がかわってきますよね。あれと同じでこの部分に非常に日本の農林規格で決められた欠点のグレードのどのくらいの欠点があるとどういうふうに破壊が起こるかというのを実験をすでにやってますので、そのへんをふまえて、今度はJASの欠点との照合性をやりたいというふうに考えています。

ちょっと巻きが入っていきてます。すいません、さっき時間食いすぎまして。それから23年度以降はこういうふうに、それの継ぎ手仕口の種類を変えてやりたいというようなことです。

耐久性WG:社寺や民家の劣化調査、強制劣化実験から、
今後建築される伝統木造建物の生物劣化対策・維持管理手法まで

それから耐久性ワーキングですけれども、これはまず最初に社寺建築や民家の構造の劣化調査から始まります。これはイメージです。これは京都大学の藤井先生からもらった写真なんですけれども、シロアリの食害とか土蔵の腐朽の状況、あるいは小屋組の腐朽、こういったものをまず基本的に調べる。

今度は強制的に劣化させて、その強制的な劣化、これはコントロールしやすいですから、強制的に劣化させたコントロール試験体の残存強度とその非破壊的に測った、たとえば何でもいいんですけども、キリで刺した時の貫入量みたいなものとのパラメーターを用いて腐朽を非破壊的に測る実験があるんですが、そういうことをやる。それの実験風景のイメージです。これも我々が心材の腐朽成分を調べるためにやった実験なんですけども、それのイメージです。こういったことを多分やっていくことになると思います。

それから今後建築される伝統木造の生物劣化対策の基本方針を検討するということで、このワーキングでは4つの点を考えてやろうというふうに考えています。1つは材料です。樹種。それから2つ目がその構造ですね、伝統木造構法。

それから3つ目が施工方法と4つ目がどうやって維持管理していくか、これらを含めて耐久性の維持管理手法、失礼、伝統構法建築の維持管理手法の検討を行っていこうというふうに考えています。

古材WG:非破壊検査で古材を再利用する時の指標を推定

最後に古材ワーキングですけれども、これは我々の材料部会の中でもかなり特殊な分野になるかもしれませんけれども、非常に専門性の高いところです。なにをやるかといいますと、とにかく超音波伝播速度というものを用いて古材の性能を測りましょうということです。

古材というのはすでに建っているお寺とかそういったところの中の屋根裏に入っていって、その建物を壊さずにその現場で測ってしまおうと言うことです。唯一使う道具はこのファコップという超音波を測る機械があるんですけれども、ここからポンと押して叩いてここで何秒かかりましたかという伝播速度を測る機械なんです。何秒という単位ではありませんで、ナノセカントになりますけれども、その非常に早い時間で伝播速度がわかると木材の密度と木材のヤング係数の相関からこれを何回も何回も第一次ビーム、第二次ビームというふうにくり返していくと、ヤング係数を密度を測らなくても推定できるんだという、うまく理論ができていまして、それを利用していろんなところの古材を既に測っておりますけれども、平均的に言うと古材というのはこのくらい、ヤング係数で言うと8ギガパスカルくらいあるんだというのもおもしろいですけれどもでておりまして、これをどんどんどんどん増やしていくと先ほどの推定精度がどんどん上がっていくわけですけれども。こういった手法を用いて、古材をもう一回使うときのヤング係数、すなわち材料の伸びやすさ、あるいは曲がりやすさの指標を推定していこうということです。

この指標を利用して再利用していこうということで、これもイメージですけどもすでにやった事例の写真です。こういったようなことを我々の材料部会ではやろう、もちろん後藤先生のところの実験部会、あるいは麓先生のところの構法委員会と歴史的なものとのタイアップをしながらやっていこうというふうに考えております。すいません、時間が押してまして申し訳ありませんでした。