公開イベント
 

全国6ヶ所キャラバンツアー 講演会「知恵と工夫の設計—伝統建築に学ぶ」
伝統的構法の定義

伝統的構法の定義

構法歴史部会の麓和善主査による講演

伝統を未来につなげる「伝統的構法」

西洋の建築学を取り入れて洋風化する以前の、わが国の伝統的な木造建築の構法を「伝統構法」とよびます。木造建築の変遷の歴史をひもといてみると、明治24年の濃尾地震以降に、筋交や火打など三角形の構造、基礎と柱脚の緊結、金物接合など、西洋の建築学や建築技術を採用した耐震化がなされてきたことが分かります。そうした建物全体の剛性や最大耐力を高める方向へと木造建築が変化していった結果として、現在の建築基準法に位置づけられる「在来工法」があります。

検討委員会では、わが国の職人技術の伝承、資源の循環、地場産業の活性化など、さまざまな側面から、在来工法に変化する以前の伝統構法を、過去のものとしてでなく、むしろ、積極的に将来にわたって継承すべき構法と位置づけています。そして、伝統構法の構造力学的な特性を工学的に解明し、耐震性能をしっかりと担保しながら将来に継承し得る形に工学的に検証・整理したものを「伝統的構法」とよびます。

伝統構法のケーススタディから見えて来た、伝統的構法の輪郭

ひとくちに「伝統構法」といっても、これまで、人によってその指し示す内容は様々でした。そこで、構法歴史部会では、濃尾地震以前から長い歳月を経て現代にまで受け継がれてきたすぐれた伝統構法の実例を調べました。保存修理報告書の読み取りや実地調査による21件のケーススタディを行う事により、伝統構法の形が、そして、そこに見られるさまざまな知恵や工夫の集積しての、未来につなげていくべき伝統的構法の輪郭が見えてきました。

地域、気候風土によって幅がありますが、最大公約数的な要素を抽出して、伝統的構法を「丸太や製材した木材を使用し、木の特性を活かして日本古来の継手・仕口によって組上げた金物に頼らない軸組構法」と定義します。

伝統的構法は、次のような点で在来工法と異なります:柱や土台は基礎に金物で緊結しない場合があります。柱に、貫・差物・梁・桁などを、木の特性を活かした継手仕口加工による「木組み」の技術で組上げます。壁は小舞下地の土塗り壁または板壁。主な水平抵抗要素は、軸組の曲げ抵抗、木材のめり込みによる接合部の回転抵抗、壁体の剪断抵抗により、高い変形性能を有します。

「伝統的構法のための設計法」の確立へ

検討委員会では、上記のように定義される伝統的構法の構造的な特性である変形性能を活かした耐震設計法として「伝統的構法の設計法」を確立しようとしています。(詳しくは「新しい設計法」のページをご参照ください)具体的には、ごく稀地震でも倒壊や崩壊に至らないだけでなく、損傷を修復可能な範囲にとどめ、想定外の巨大地震に対しては柱脚の移動で入力を低減させるような設計を目指します。2012年度末には、設計法の原案ができる予定ですので、どうぞご期待ください。

事例から学ぶこと。民家調査から見えた知恵と工夫

構法歴史部会の上野英二委員、上田忠司委員による講演

配布資料の関連ページ

Ⅱ 事例調査の概要
構法歴史部会 麓和善主査
PDFをダウンロード(15ページ 4.4MB)

Ⅲ 事例から学ぶこと-民家調査から見えた知恵と工夫
構法歴史部会 松井郁夫、鳴海祥博 、宮本繁雄 、上田忠司、大江 忍
構法歴史部会 麓和善主査
PDFをダウンロード(10ページ 2.3MB)

Ⅳ 伝統的構法の定義
構法歴史部会 鳴海祥博
PDFをダウンロード(12ページ 2.1MB)