2012年度の実大震動台実験の目的と試験体
2012年度の実大震動台実験

目的

この実験は、NPO法人 緑の列島ネットワークが、国土交通省の補助事業により組織された「伝統的構法の設計法作成及び性能検証実験検討委員会」のもとに、独)防災科学技術研究所・兵庫耐震工学研究センターの実大三次元震動破壊実験施設において実施するものです。一連の実験のうち、伝統的構法で建てられた実大の2階建て木造建物(2棟)の震動台実験を公開いたします。

現在、伝統的構法の木造建築物は、構造力学的に未解明な部分も多く、耐震性能などの把握は難しく、また設計法が確立されていないため、確認申請の受付や工事の着工が著しく減少し、危機的状況に置かれています。このような状況のもとに伝統的構法の継承・発展を鑑み、本実験は、伝統的構法の設計法を構築するため、平成23年1月に行われた4棟(平屋2棟、総2階建て2棟)の実大実験に引き続き、石場建て構法の部分2階建て下屋付き2棟の実大試験体No.5、No.6を製作し、この2棟の試験体を震動台の上に載せ、同時に加震します。

今回の試験体は、2棟とも建物と基礎とを緊結しない「石場建て仕様」ですが、No.5は柱脚フリー、No.6は地長押を用いて柱同士をつなぎ、比較検証します。「地長押」について、検討委員会の鈴木祥之委員長より、説明をいたします。

地長押の設置について



地長押を柱脚部に設ける構法が古くから存在するが、今回の実験では、以下のような目的で地長押を柱脚部に設置する。

柱脚間のみを拘束
石場建ての場合、地震時に柱脚がばらばらに移動して柱脚間が広がり、建物に大きな損傷が生じることが懸念される。柱脚のばらばらに移動や柱脚間の広がりを拘束するために、地長押を柱脚部に設ける。実験では、このような効果を検証する。

柱脚部を拘束する/しないの比較・検証
柱脚の仕様として、柱脚の水平・上下方向の移動を拘束する/拘束しないが、設計法の課題となっている。今回の実験では、地長押を介して架台に固定する、あるいは固定しないことによって、柱脚部を拘束しない/拘束する条件下で、比較、検証を行う。

今回の実験で地長押の下に隙間を設けない理由
柱脚部に地長押を設ける場合、木部の耐久性のため、地長押の下に隙間を設けることが望ましいが、今回の実験では、地長押を介して架台に固定する。その場合、地長押の下に隙間が空いていると固定方法に問題が生じるため、 地長押の下に隙間を設けていない。

実施日

2012年 9月18日(火)〜19日(水)
19日のみ、一般公開します。

試験体

試験体の仕様

石場建て、土壁塗り、部分2階建て(下屋付き)の実験棟を2棟並べて加振します。



面積平面寸法:11.83×7.28m (1階86.12平米 2階46.37m2 延床面積132.49平米)
階高1階3,620mm 2階2,400mm 軒の高さ7,760mm
軸組天然乾燥材
柱:檜210mm角及び120mm角(背割れ有)
梁:杉120×240mm、120×300mm他
杉板貼り(厚み30mm)
耐力壁土壁 (壁厚全面壁60mm、垂壁・腰壁50mm)
接合部柱-横架材、横架材-横架材の接合部は、伝統的な仕口や継手仕様
基礎形式試験体 No.5=石場建て
試験体 No.6=石場建て(地長押仕様)
屋根日本瓦桟葺き (ガイドライン工法)

※No.5とNo.6の試験体の違いは、No.6の柱脚部に地長押を追加している点だけで、それ以外の構造体は同一です。

試験体 No.5の柱脚 (石場建て)

試験体 No.6の柱脚 (石場建て)、地長押仕様

地長押とは?
柱を両側から2本の部材ではさみ、雇貫を通し栓で留め、柱脚同士つなぐように固定する仕様を「地長押」仕様とよびます。柱同士をつなぐものであり、礎石と柱とを拘束するわけではありません。

試験体No.6(地長押付き)で検証できること
柱脚間の広がりを拘束するので、柱脚がばらばらに移動したり、柱脚が浮き上がったりすることを抑制する効果を検証します。

地長押の配置図

地長押の詳細図

3パターンを評価・検証

1)地長押なし(試験体No.5):柱脚がフリーな状態で、滑りの検証・評価
2)地長押付き(試験体No.6)を架台に固定:基礎と緊結した状態と同じ
3)地長押付き(試験体No.6)を架台に固定しない:柱同士はつなぐが、礎石と柱は拘束しない

※2011年2月に京都大学防災研究所で行った通し柱・地長押の要素実験の速報および事務局レポートもご参照ください。
 

試験体の写真



より多くの施工写真をこちらからご覧いただけます。

試験体図面

1階平面図

2階平面図

長手方向 立面図 い通り側より望む

短手方向 立面図 14通り側より望む