2010年9月21日

2010/9/18 木の家スクール名古屋 一般公開講座 開催しました(渋澤寿一氏)

森の聞き書き甲子園」の高校生が見た「不思議な村

今年も 澁澤寿一  NPO法人 共存の森ネットワーク 副理事長)をお招きし、昨年の「日本の森に見る持続可能なシステム」の続きのお話を伺いました。

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東京オリンピック(1964年)の前後で、日本は大きく変わりました。都会にはTV、冷蔵庫、車などが普及し、農村は機械化され牛や馬がいなくなり、石油依存の生活が始まりました。「経済以外の指標を持たない高度成長時代はおかしい」との思いから、1960年以前の暮らしを残しておこうと「森の聞き書き甲子園」を始めたのです。 

「森の聞き書き甲子園」は今年で9年目。毎年100人の高校生たちが100人の「森の名人」との出会いを高校生自身の言葉で綴った物語です。自然をベースにして生きている人たちを取材してまとめた聞き書きは、昨年までに800編になり、農文協から出版されていますし、「森の聞き書き甲子園」のHPからも読むことができます。今年からは「海の甲子園」も始まっています。

 

一人の高校生が一人の名人に聞き取り取材をして、新たな価値観に出会い、自らを養っていくのです。地域の礼儀、農作業、森の仕事、住まいの補修、地域の共同作業、自給自足の食べ物作りなどを学び、文化を伝承していくことが目的ですが、「聞く」ことから「つながり」 が始まり、人の輪のネットワークが強く出来ていきました。

 

日本中の農村が人口の減少に歯止めが聞かなくなっている中で、新潟県村上市高根地域に過疎にならない村があります。美しい棚田を持つこの地域は10,000町歩の共有林と100町歩の棚田を持っています。将来、耕作放棄地の拡大を懸念して、学生と住民がそれぞれの役割を分担して、世代をつなぐ地域づくりを続けています。煩わしくもあり有難くもある強固なコミュニティーを大切にする人の輪のネットワークが、過疎にならない理由でしょう。

 

大切なのは、食べ物を自分で作って、おしゃべり仲間がいて、生活できるだけのわずかの収入と、アバウトな暮らし。自然の中の一部として人間が生きていた1960年以前の暮らしこそ、生きている実感も味わえ、かつ持続可能な社会なのだと、「聞き書き甲子園」を通じて気付かされます。


2010年8月16日

名古屋 第三回 木の家スクール報告(第一部 中尾晋也氏 第二部 益子義弘氏)

名古屋 第三回 木の家スクール報告

(第一部 中尾晋也氏)

 

“あかりをもっと楽しみませんか? ”

          - 人の心とあかりの関係 –

 

大光電気株式会社の中尾晋也さんをお招きして、“あかり”のお話をお聴きしました。

50万年前に人類が炎を発見して以来、130年ほど前にエジソンが初めて炎以外の明かりである『炭素電球』を実用化させた。以後、蛍光灯を初め、様々な種類のランプが開発され、つい最近では、省エネをうたい文句に、白熱電球にとって変わるボール型蛍光灯やLEDランプが急速に出回りつつある。

ランプの開発が進むにつれてエネルギー効率は上がり、一見、省エネは進んでいるように見えるが、一方でオフィスや住宅の基準照度が大幅に高くなり、例えば住宅の6畳間を照らす明かりで比べると、現在は昭和初期頃の実に10倍の明るさになっており、むしろ電気使用量は格段に増えている。

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ただ“明るい”ことが良いことではない。

“本を読むのに適した明るさ”

“食事がおいしそうに見える明るさ”

“安らかに眠りにつける明るさ(暗さ)” など、その空間に適した明るさの設定と、LED(長寿命で省電力、寒さに強い)や、白熱球(心理的に暖かさを感じる、高い演色性)など、それぞれの光源の特徴を活かした“適材適照”の照明デザインが大切である。

 

とは言え、今後、白熱球の製造が中止され、LEDが主流となるであろう流れの中、単に従来器具の代替としてではなく、LEDのメリットを活かした新たな器具を開発して行くと共に、それを活かす、次世代の照明手法の確立が必要がである。

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( 第二部 益子義弘氏)

環境との対話と居場所のかたち

益子義弘氏 (建築家 東京藝術大学名誉教授)

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今回は、住いの空間の骨格を考える上で大切な周辺環境とその関わりや人たちの居場所のありようについて、ご自身の設計なさった別荘をご紹介いただきながら、お話頂きました。

 

スクリーンに映し出される数々のスケッチや建物のエスキースは、まるで水彩の絵コンテのよう。あるときは鳥の目線から、あるときは大地に腹這うように、自在な角度からのスケッチがなんとも心地よく、思考が止まり、只々ウットリし続けた講義でした。

 

「林に一脚の椅子を置くように」建物を設計するために、益子先生は季節ごとに現地に足を運び、「土地や風景との対話」の準備期間を大切になさるとのこと。どの風景をどのように切り取り、どう見せるかを決めるために、スケッチだけでなく、いくつものエスキース模型をつくり検討を重ねる姿勢に、全てを委ねられた設計者の責任の重さを痛感しました。

 

その検討を重ねた結果の空間の気持ち良さそうなこと!「この別荘に住みたい!」、そんな思いを設計士に抱かせる、魅力的な住まいの空間でした。

 

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2010年7月4日

名古屋 第三回 木の家スクール報告 (一部 大嶋信道氏 二部 麓 和善氏)

自然素材の取り入れ方と、継承のしかた
大嶋信道氏
  (大嶋アトリエ代表、武蔵野美術大学講師)

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東大名誉教授の藤森照信氏と協働設計をされている大嶋氏。大学卒業後に、建設会社勤務を経て、東大・藤森研に所属された。当初は建築史について研究するつもりが、いつの間にやら藤森先生の建築家としての活動に協力することになったとのこと。
「ニラハウス」では、建主の赤瀬川氏とともに、山から栗の倒木を伐り出し、これを手ではつったり、チェーンソーで削るなどして、玄関の列柱をつくられたそうです。「ツバキ城」では、RC躯体の中に荒削りの栗の木でロフトをつくったプロセスをお話しいただき、持参いただいた赤瀬川氏が実際に削ったという「手すり棒(?)」の実物を見せていただいた。一本足のヒノキで空中に浮いている「茶室・徹」は、敷地内の桧の木を伐採してつくられたとのこと。ユニークな藤森建築がつくられる舞台裏の苦労と魅力を堪能させていただいた。
大嶋氏が設計された伊豆大島の民家では、既存の木材や建具やしつらえが、独自の図面表現で職人さんに伝えられている。地域性を活かした民家再生の実例をご紹介いただいた。

 

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プロフィール:1960年鳥取県生まれ。武蔵野美術大学建築学科卒業。建設会社勤務を経て、1990〜94年 東京大学藤森研究室。1991年大嶋アトリエ設立。「倉吉の町屋」で鳥取県景観大賞。著書「建築虎の穴見聞録(新建築社)」「藤森流自然素材のつかいかた(共著)(彰国社)」

 

 

名古屋城宝暦大修理から学ぶ江戸時代の建築技術
麓 和善 氏
 (名古屋工業大学大学院 教授)

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名古屋城の本丸御殿復元では、特別史跡名古屋城跡全体整備検討委員会委員・建造物部会長を務められ、各地で講演をされております。
今回は、伊藤家(松坂屋創業家)に残っていた天守閣の宝暦の修理記録についての研究発表をしていただきました。
日本一大きな天守閣であった名古屋城の天主閣が傾き、建築完成後140年後に傾きを治すために、石垣を積み直すという壮大な事業を
当時の最新の技術が記録してあった図面の解説をしていただき、大工の技術の素晴らしさを改めて認識させていただくことができました。
参加者も興味をもって聴講できました。

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プロフィール:専門は、日本建築史・文化財保存修復。名古屋城・安土城・鳥取城・金沢城・犬山城・甲府城・織田信長居館(岐阜)・長浜城(沼津)・高山陣屋・名勝諸戸氏庭園・重文東山植物園温室・重文旧美歎水源地水道施設等、全国の文化財修復に委員として参画。


2010年6月21日

2010/6/19 木の家スクール名古屋第2回目講義

2010/6/19 木の家スクール名古屋第2回目講義

山辺豊彦氏 山辺構造設計事務所 代表

 〝わかり易い木構造〝

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 今年度は新しい受講生が多いことから、基本に立ち返っての講義になりました。

今年で8年目の木の家スクールですので、山辺先生の講義は通算15〜16回目になります。常連の受講生は、きっと「何度も聞いたな〜〜この話」と思われたでしょう。

 確認申請時には4号特例で提出を求められてはいませんが、

1.壁量の確保

2.壁配置のバランス

3.柱頭・柱脚の接合方法

4.基礎の仕様

は設計をする際は、必ず検討をする必要があります。 

木構造の基本構成は 軸組みと体力壁と水平構面とそれらを支える地盤・基礎ですので、

上記の4項目に加えて、壁倍率に応じた水平構面の強さ(床倍率)や、外周部の接合部の強さ(接合部倍率)をしっかり検討しておくことも大切です。

 

 

次回(11月6日)の山辺先生の講義には、受講生の設計した(している)建物の構造チェックを計画しています。先生のアドバイス、講評を頂きたい方は、ぜひ受講会場で運営委員までご連絡ください。

                                文責 寺川千佳子


2010年5月15日

2010/05/08 木の家スクール名古屋第1回講義 2コマ目 綾部孝司氏 講義

〝設計しながら木を刻む〝

 

講師 綾部孝司さん 綾部工務店取締役

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大学卒業後、商業施設を中心にした企画と設計の会社に就職し、充実した日々ではあったが、スクラップアンドビルドの連続に違和感を覚え、住宅設計の設計事務所に移り、さらに木造を深く知るために、家業の大工工務店を継ぐことを決意する。 

仕事がデスクワークから現場に変わったことで、木が材料ではなく生き物であること、建築を頭ではなく体で感じ、失敗でできない緊張の日々が感性を鍛えてくれる。「木を活かす気持ち」で取り組むことから、形が決まり、その形を生みだす技術が育つ。伝統構法とは、木を活かす気持ちを抜きには考えられない。 

目指すのは、循環に基づいた自然な暮らし。自然な営みの中に活かされていることを、住まい造りを通して伝えたい。だから使う材料は木と土と紙。雨に弱い材料だからこそ、造り手は保守のしやすさを考えて建てる。 

建物を長持ちさせるためには、悪くなった部分を見つけ易いことが一番。その為には内外真壁構造が一番。そして床下に潜りやすい石場立てが最適。保守(見つける)は建て主の仕事、工務店は手直しのお手伝いだ。 

住まい手は住まいながら育ち、造り手は造りながら育つ。そんな家造りが難しくなっている。必要な材料が身近で入手しにくい。ついで法律が手足を縛る。法律や制度が定める安全の基準や性能は、近視眼的ではないのか?受け継がれてきたすばらしい工法を、未来に繋げられるように、伝統構法の良さを皆さんに知っていただきたい。

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(文責 運営委員 寺川千佳子)