進捗状況

2012年7月27日

7/6(金) 古建築のほぞ接合部のモーメント抵抗性能試験の速報

速報=佐々木康寿(材料部会 古材WG)

1.実験の目的

材料部会古材WGでは,古建築の接合性能を検証するために,建物の解体時に仕口接合部をそのままの状態で採取し,接合部のモーメント抵抗性能に関する公開実験を名古屋大学で行いました.開催日時は2012年7月6日(金)14時〜15時,会場は名古屋大学大学院生命農学研究科・A館-145号室(木質構造実験室)です.当日は雨天でありましたが6名の一般参加者がありました.

2.試験体

今回の接合部試験体は,長野県の古寺院客殿(写真1,明治27年9月2日完成)から解体時に採取したもので,柱と梁の接合部(ほぞ差し)を含むT字型(約1.5m×2.0m)のもの4体です(写真2,3).試験体の採取に当たっては,接合部に負荷を与えないよう予め方杖用の板材を釘打ちし,解体,搬出しました(写真3).樹種はスギ材(柱)とアカマツ材(梁)で,柱材は断面寸法が112×112 mmでした.建物の状態は比較的良好で,腐朽などの目立った損傷は見受けられませんでした(写真4).

写真1 解体物件

写真2 試験体採取部の一例

写真3 最終試験体の搬入

写真4 建物の基礎部分

図1〜4に接合部試験体の形状・寸法を示します.試験体の状態として,No.1ではほぞが梁材を貫通し,ほぞの先端が梁材を突きぬけていました.試験体No.2では梁の柱付近に穴(目的不明)が開いていました.試験体No.3の梁材には仕口付近(約20 cm)に継手(腰掛け鎌継ぎ)がありました.試験体No.4は写真に示すように,梁材の一部に虫害の形跡が見られました.試験体No.1とNo.3は接合部でのあそびが大きく,柱材に軽く力を加えるだけで大きく傾いてしまうような状態でした.このようなことから,試験体No.1とNo.3では特に負荷初期でのモーメント抵抗性能は小さいことが予想されました.また,試験体No.3を除くと,ほぞ長さが今日のプレカット材に比べて長いように思われました.

図1 試験体No. 1

図2 試験体No. 2

図3 試験体No. 3

図4 試験体No. 4

3.試験方法

写真5は加力試験の様子を,写真6には公開実験時の参加者見学の様子を示しました.柱材上部はアクチュエータとピン結合し,梁材を試験機フレームにアンカーボルトで固定しました.加力は定速変位制御(200mm/min)による正負繰り返し交番載荷で行いました.変位の折り返し点は,柱-梁のせん断変形角が1/450, 1/300, 1/200, 1/150, 1/100, 1/75, 1/50, 1/30, 1/10 rad.となる9ステップに加えて,最大ストロークである200 mm(約1/5 rad.に相当)としました.各ステップでの繰返し回数は3回で,計30サイクル繰返し加力しました.変位計を図1に示すように6箇所に設置し,柱-梁のせん断変形角,柱の浮き上がり量などを算定しました.

写真5 加力試験の様子

写真6 公開実験の様子

4.試験結果

 復元力特性として,図5に「荷重とせん断変形角の関係」を示しました.これより,試験体No.1とNo.3については,当初より予想された通り,復元力特性が劣っていることがわかります.例えば,試験体No.1については図1に示すように,ほぞ先端が梁材を貫通していることに加え,篏合度が甘い(あそびが大きい)ことが低性能であった原因と考えられます.図6に各試験体のほぞ・ほぞ穴の形状寸法を載せました.これより試験体No.1の篏合度の甘さがあらためて理解できます.試験体No.3もNo.1と同様に篏合度が甘く,さらに,ほぞ長さが短い(45mm)ことで低性能であったと考えられます.これらのように篏合度が甘くなった理由としては,①加工当初より勘合度が緩かった,②経年による寸法変化(乾燥による収縮),③災害時(例えば1960年代の松代群発地震)の負荷履歴の影響などが可能性として考えられるでしょう.これに対して試験体No.2とNo.4は若干のあそびはあるものの,その影響は少ないようでした.これらの試験体(No.2とNo.4)は,いずれもほぞの元(付け根)の部分で折損を生じた際に最大荷重を示し,以後,耐力を失いました.写真7にほぞの折損の様子を示します.なお,試験体No.2の最大モーメントは2.18 kNmを示していますが,ほぼ同じ仕口寸法のスギ材を使った試験体で力学試験を行った既法の結果と同程度の性能を示しているようです.
 以上のように,解体前の目視観察では材料が良好な状態であっても,仕口接合部のモーメント抵抗性能が期待できない場合のあることがわかりました.

図5 荷重とせん断変形角の関係 (a) 試験体 No.1

図5 荷重とせん断変形角の関係 (b) 試験体 No.2

図5 荷重とせん断変形角の関係 (c) 試験体 No.3

図5 荷重とせん断変形角の関係 (d) 試験体 No.4

図6 仕口接合部の形状・寸法 (a) 試験体 No.1

図6 仕口接合部の形状・寸法 (b) 試験体 No.2

図6 仕口接合部の形状・寸法 (c) 試験体 No.3

図6 仕口接合部の形状・寸法 (d) 試験体 No.4

写真7 ほぞの折損(試験体No.4)

謝辞:試験体の提供,解体・採取・搬出など,この実験に協力された皆様に感謝いたします.また,公開実験では雨天の中を参加された皆様にお礼を申し上げます.