進捗状況

2012年2月9日

1/21 車知仕口引張り・曲げ試験@京都大学生存圏研究所

速報=北守顕久(京都大学生存圏研究所)

実験検証部会 要素実験WGでは、伝統構法接合部の中でも主要な回転抵抗要素である車知仕口について、様々な各部の寸法条件をパラメータとした引張試験と対称純曲げ実験を行っている。

1月21日(土)の13時から16時まで、京都大学生存圏研究所木質材料実験棟において、引張試験、対称純曲げ試験の3条件計3体について公開実験を実施し、荷重-変形履歴曲線や破壊性状を観察するとともに、これまでに実施した結果を踏まえて各寸法要素パラメータが及ぼす影響について説明を加えた。京都府近郊の建築士、確認検査機関、工務店代表、学生等、計6名の参加あった。

写真1 公開実験観察の様子

試験の背景

伝統構法建築物の耐力評価に際し、接合部の強度性能の評価は重要な因子である。各地域や対象物件でさまざまに異なった樹種、寸法、要素形状を持つ伝統構法接合部に対して適切な評価を行うためには、材料や寸法の持つそれぞれの働きを明らかにする必要がある。本業務ではこれら伝統構法接合部に対して、将来的な算定式による評価法の確立を目指した実験的な耐力性能の検証を行っている。本項目ではそのうち、主に回転抵抗を期待して主要な柱-梁接合部に用いられる、雇い実-車知栓留め仕口(以下車知仕口)についての実験経過報告を行う。

試験方法

車知仕口に対しては①引張試験(K1)、②対称純曲げ試験(L1)の2加力条件での実験を行っている(図1)。なおこれは、車知仕口に作用する力がより明快な条件下で性能評価を行うためであり、実際の接合部においてこの力学条件が主要となるわけでは無い。①引張試験(K1)については単調加力を行い、②対称純曲げ試験(L1)については見掛けの接合部回転角を徐々に増加させる正負交番1回繰り返し載荷を行った。

図1 引張・曲げ試験装置(画像をクリックすると大きく表示します)

接合部の型式は、断面120×120mmのスギ柱に、断面120×240mmのスギ梁を両側から取り付け、断面30×120mmのヒノキ雇い実を挿入し、7.5×30mmのシラカシ車知で止めつける仕様を標準とし、図2に示す各部の寸法条件をそれぞれ変化させ、K1で12条件、L1で10条件に対し、それぞれ3体ずつの実験を行った。なお、柱、梁に用いたスギ材は静岡産の天然乾燥芯持ち材であり、含水率が20%程度のものであった。

図2 車知仕口各部の寸法パラメータ

 

表1:①引張試験(K1)の寸法パラメータ


 

表2:②対称純曲げ試験(L1)の寸法パラメータ

引張り試験の破壊性状

K1(引張)試験体については、目違の隅角部からの梁の縦割裂もしくは目違による柱の縦割裂の発生が破壊の起点となり(写真3)、その後梁が開くことによって車知が回転し(写真4)、最終的に車知が曲げ破断して耐力低下する(写真5)破壊性状がほとんどの条件で見られた。また車知を通常より扁平にした条件では、車知の圧縮座屈が先行することにより降伏する様子(写真6)も観察された。

写真2 破壊全景


写真3 破壊の起点


写真4 縦割裂の伸展


写真5 車知の曲げ折れ


写真6 車知の座屈


写真7 接合部の横割裂

曲げ試験の破壊性状

L1(曲げ)試験体については、K1(引張)と同様に多くは車知の回転に伴う梁の縦割裂により破壊を生じた(写真9)。一方でそれに先立って、K1条件ではあまり見られなかった梁端部におけるせん断破壊が徐々に伸展する様子も観察された(写真10)。

写真8 曲げ試験全景


写真9 梁の縦割裂


写真10 梁端部のせん断破壊

引張り試験の荷重-変形関係

図3に引張試験で得られた、片側接合部の荷重と変形の関係(初期すべりを除外し、3体を平均化したもの)を示す。

図3 引張試験荷重-変形関係

標準試験体(K1-1)では最大耐力約38kN、最大耐力時変位約5mm程度であった。また、全体的に最大耐力に達した後にやや急激に耐力低下する様子が観察された。

図3の結果の荷重を試験体の車知の長さで除し、車知の単位長さあたりの耐力に換算したものが図4である。

図4 引張試験荷重-変形関係(単位車知長さあたり耐力)

図4左上では梁せいおよび雇い実せいの異なる試験体同士を比較したが、試験体間で最大耐力や変形性能に大きな差は見られず、引張性能では概ね車知長さに比例して耐力が定まると考えられる。ただし、梁幅が大きいときにはやや初期剛性が高くなった。また、車知の位置が異なった(図4右上)としても、車知の耐力発現効率にはほとんど影響が無いことが分かった。一方で、車知の形状は特に初期剛性に影響を及ぼし(図4左下)、車知が厚くなると初期剛性が向上し、また、車知の扁平率が高まると、座屈によって早期に降伏が生じた。ただし、これらは最大耐力にはほとんど影響をもたらさなかった。一方で、雇い実導入溝の基部が無い場合や、目違いが無い場合には最大耐力が大きく低下した(図4右下)。

以上より、車知継ぎ手の耐力は梁の縦割裂によるものであり、目違で柱に収まっていることや、梁の溝が三次元的に基部で押さえられていることが梁の縦割裂を抑制する効果があり、車知仕口の引張耐力発現に大きく影響する事が明らかとなった。

曲げ試験のモーメント-回転角関係

曲げ試験における、仕口モーメントと回転角の関係を図5、図6に示す。なお、結果は図3と同様に、初期遊び等を除外した後、同条件3体の結果を平均化したものである。曲げ試験では車知側が引張力を受ける場合と圧縮力を受ける場合でそれぞれ抵抗要素が異なると考えられる。そのため、それぞれの結果を別々に表示した。

図5は車知-雇い実のある側が引張力を受ける場合であり、一般に車知仕口の耐力発現機構として期待される加力方向である。

図5 曲げ試験モーメント-回転角関係(車知側引張)

標準型(L1-1)では最大モーメントで約6kN.m、最大モーメント時変形角で1/20radの結果であり、最大モーメント後には急激に耐力低下を示した。梁せいは耐力性能に最も強く影響し、梁せいが大きくなると耐力が向上するが、反面、変形性能は低下した。その他の各寸法条件の違いにより、若干の耐力性能に違いが見られたが、その影響度合いについては今後の検討課題である。

図6には車知-雇い実のある側が圧縮力を受ける時の結果を示した。

図6 曲げ試験モーメント-回転角関係(車知側圧縮)

図5と図6の結果を比較すると、標準型の寸法条件では、初期剛性については車知圧縮の結果が車知引張と比べて概ね半分程度と柔らかいが、最大耐力については概ね4kN.mと、車知側引張の場合の2/3程度の耐力を有した。車知側圧縮条件では雇い実が肘木のように働き、肘木の先端と梁の小根ほぞとの間で鉛直偶力を生じて耐力発現すると考えられ、最大モーメントは肘木(雇い実)が曲げ折れることで決定された。結果として車知側圧縮条件では急激な耐力低下を生じる履歴性状を示した。

まとめ 
実験の結果を以下にまとめる。

•車知仕口の引張耐力は車知が回転力を受けることによって、梁が縦に割裂破壊することによって定まる。
•目違や雇い実導入溝の基部は、それぞれ梁の割裂を防止し、耐力を高める働きをしている。
•車知を厚くしたり扁平率を変えると初期剛性や降伏耐力に影響するが、最大耐力にはほとんど影響が無い。
•曲げ試験において、梁せいが大きくなると初期剛性は向上するが、半面変形性能が低下する。
•曲げに対しては、車知側が引張力を受ける場合のみならず、圧縮力を受ける場合においても抵抗機能を持ち、標準型の試験条件においては、初期剛性で1/2程度、最大耐力で2/3程度の耐力性能を有する。なお、この圧縮側の抵抗メカニズムでは梁せいが大きくなってもそれほど性能向上は見られない。
•引張試験の結果からの曲げ性能の評価法については今後の検討課題である。