進捗状況

2011年8月31日

8/11 古材強度試験@塩尻

レポート=和田洋子(検討委員会 事務局、一級建築士事務所有限会社バジャン)

木曽川の景観を楽しみながら塩尻へ

名古屋方面から「ワイドビューしなの」という特急に乗り、今回の実験が行われる長野県林業総合センターのある塩尻へと向かいました。「しなの」は岐阜の中津川を越えたあたりから、つねに左側に木曽川を眺めながら、急峻な山が迫る木曽谷を走り続けます。上松(あげまつ)駅の手前では、木曽川の水流で花崗岩が侵食されてできた「寝覚ノ床(ねざめのとこ)」という、白い奇岩とエメラルドグリーンの川水とのコントラストが、見事でした。

木曽谷には、線路沿いのわずかな平地以外、田畑はありません。その分、年間降水量3000mmという豊富な雨量と保水力の高い地質のおかげで針葉樹が生育しやすく、近世初期以降、ヒノキを中心とする林業がさかんな地域として知られます。林業に付随し、街道筋には漆器、お六櫛など、木を加工した手工業製品もつくられてきました。木曽楢川、奈良井宿など、旧中山道の宿場町の風情も多く残っており、車窓からも十分に木曽谷の景観や街並を楽しむことができました。

車窓から見る木曽川

古材の強度性能を調べる

今回の実験の目的は「古材の強度性能を確かめること」です。古い民家では、かなり立派な住宅であっても、家族用の居室や収納部分、小屋裏などに、かつては他の建物で使われていたのであろう仕口の跡が残る部材を、構造材に使っていることがあります。これは私の勝手な想像ですが「使える間は使わせていただく」というのが、昔の人の至極当たり前の感覚だったでしょう。

一度建築物に使った木材は、解体処分すれば「廃棄物」となってしまいますが、「古材」として再利用することができます。木に対する謙虚で敬虔な気持ちも大事ですが、それだけでなく、構造材として正しく評価する事も必要です。果たして「古材」は、新しい材と比べ、どれくらい強度の点で劣っているのかいないのか。それを検証することが、今回の実験の目的です。

折れてもなお粘る古材

アクセスが良いとは言えない長野県塩尻市での実験でしたが、なかなか行われることのない古材の実大実験ということもあり、24名もの方が参加し、名古屋大学大学院生命農学研究科 佐々木康寿先生が取り仕切る実験の様子を熱心に見学していました。

実験に使う古材を前に、参加者に説明する佐々木先生

最初に築170年(推定)の古民家から採取した赤松の梁を実験しました。囲炉裏があったのでしょうか、表面が煤で覆われ、真っ黒になっている材でした。佐々木先生の研究室では、試験体は「かつて建っていた方向で実験する」ことにしているそうです。そのため、その梁も「かつての上下」のまま、上に乗る梁が渡っていたであろう渡り顎の部分を上に向けて、実験台に据えられました。

渡り顎のある方を上にして、実験台にセットする。

さて、いよいよ実験開始です。実験が進むに従って、バキッバキッという音が激しくなり、見た目で分かるくらいに曲がって行きます。「これだけ音がしても、なかなか折れないもんだなぁ」と思っていたら、かなり大きな音がしました。どうやらピークを迎え、耐力が下がり始めたようでした。破壊は節のところから起きたようでした。今年1月のEディフェンスでもそうであったように、やはり節は弱点になるようです。

築110年の古寺院から採取したやはり赤松の梁も実験しました。こちらは先程の民家よりも築年代が新しく、材も太いものの、腐朽や虫害と思われる痕があり、表面はかなり傷んでいるように見受けられました。太いだけあって、破壊音も派手です。壊れたかと思うほど盛大な音が実験室に木霊しますが、なかなか折れません。こちらは下側に仕口による大きな断面欠損があったのでそこから折れるかと予想していたのですが、そうではなく、荷重点から折れました。計測器を確認したところ折れ始めた荷重は、90kNくらいでした。

いずれの試験体も、折れてから急に耐力がなくなるのではないのが印象的でした。確かに耐力は下がるのですが、折れながらもかなり粘るのです。おそらく、完全に真っ二つに破断するまで、いくらかの耐力で持ちこたえるのでしょう。古材というまだまだ工学的に解明されていない分野の実験で、大変興味深かったです。工学的な検証は佐々木先生達の解析を待ちたいと思いますが、実務者の方々が古材を使用する際の参考になれば嬉しいです。

本棟造りの堀内家住宅を見学

実験の後は希望者を募り、塩尻駅にほど近い、長野県の民家の典型である「本棟造」の堀内家住宅(国指定重要文化財)を見学しました。屋根はゆるやかの勾配の妻入り、屋根には「雀躍り」という本棟造独特の飾りがついています。

かつては豪農として名を轟かせていた当家の屋敷を守られている堀内さんの説明で、中も見せていただきました。表の列は上手(東)から2室続きの座敷と土間、中列は3間と4間の「おえ」と土間、裏列は「裏座敷」他数室が並んでいました。土間部分から見上げる小屋組や真っ黒く煤けた梁がとても立派でした。

「古材現役」でがんばっているこのような建物のためにも、古材の強度を正しく評価できるような道を開きたいものです。

古材WG主査の佐々木康寿先生による速報もご覧ください